第7話 事実

 神社の本殿の前に立ち、二礼二拍手一礼し、大きな声で巫女を呼ぶと、社の中の鏡が光り巫女が現れた。

 相変わらず美しく綺麗な顔立ちで、そして凄く愛おしくも思えた。

「あなたの言うように、大百足の子供が無数に現れました。しかも真美の腹から…… 」

 巫女は全て分かっていたかのように、ただ黙って頷いた。

「10年前、もしかしてあの時すでに真美の体に……」

「翔斗さん、今から話す事は真実の出来事です。聞いてください」

 巫女はそういうと、10年前に起きた事を話し出した。

 10年前、健也と真美がこの神社に参拝に来た時、神社の裏山で、この神社の神である龍神と、そして異界から現れた大百足が激闘を繰り広げていた。

 そしてその戦いにより、龍神は命を落とし、大百足も瀕死の傷を負いながらもこの本殿の前まで来て、そこに居合わせた健也を喰らい、そして卵を身篭っていた大百足は、それを真美の体内に注入した。 

「そしてその時、あなたもいたのですよ、翔斗さん」

「え?僕が……」

「おそらく、大きな衝撃的な出来事でその部分だけの記憶をなくしてしまっているのですね」

 少しおき、巫女は話の続きを語り出した。

 真美が大百足に卵を植え付けられ、それを見ていた翔斗もあまりの侯景に気を失ったその時、この神社の神職者が現れ、大百足を封印した。

 大百足は封印が弱まるのを待った。 

 歳月をかけ、少しずつ封印の力は弱まり、そして傷の癒えた大百足の力の前では無効に等しくなった。

世に放たれた大百足がまず狙ったのが、喰らった健也の記憶にあった翔斗で、その記憶を使い、翔斗をあの手この手で絶望させ喰らおうとした。

 そして真美に植え付けた卵の孵化の時期をも待った。

 これがあの時の真実だと言う巫女の言葉に、翔斗は愕然とした。

「あの時、僕は健也と真美のそばにいながら、何も出来ず、ただ見ていただけ…… あの頃、僕が虐められていたとき、見て見ぬふりをしていた健也を、卑怯な傍観者だと思っていたけど、僕も同じなのかもしれない…… いや、もしかするともっと質が悪いのかもしれない。 人間なんてみんなそうなのか、誰しと自分が可愛くて、簡単に他人を見捨てれる、犠牲に出来る、醜い生き物だな…… 僕もそうだ……」

 甘い香りと気配を感じたかと思うと、背後から巫女に抱き寄せられていた。

「大丈夫、私があなたを守ります。どうか安心して下さい」

 翔斗は巫女の手を離し、体を巫女のほうに向け、強く抱きしめた。

「どうして、僕なんかを?」

 耳元に巫女の吐息がかかり、頭の中が欲望でどうにかなりそうになる。

 巫女は翔斗の耳を舐め、語りかける。

「それはね、お前を喰らうためだよ」

「え?」

 激痛が走ると、右肩から血が吹き出し、翔斗は何が起きたのか理解出来ずに悲鳴を上げ倒れ込んだ。

 巫女の顔には亀裂が入り、徐々に中からは昆虫のような皮膚が姿を現し、健也の時と同じように巫女の身体が真っ二つになり、中から今まで以上の10メートルはあるであろう巨大な大百足がその姿を表した。

 ギチギチギチギチギチ

 大百足は不気味な音を鳴らしながら翔斗を見ている。

 翔斗は大百足から目を逸らさず、しゃがみ込みながらも、後方へと後退りし、少しずつ距離を取ろうとしたが、大百足はその巨大な長い体を使い、翔斗の周りを囲うように塒を巻き、逃れられないようにされた。

「ギチギチギチ、恐怖と絶望の良い顔だな。思い出したか?お前は誰も助けられなかった。友も、好きだった女も。そして、わらわが喰ろうて擬態したかつての龍神の人型女を信じ、その様だ。」

 翔斗は精神が逝ってしまい口をパクパクさせ、動こうともしない。

「力もない、見る目もない、生きる価値すらないんだよ、貴様はな。さぁ絶望しろ、わらわが美味しく喰ろうてやるわ」

 大百足が体を天に向かい伸ばし、すぐさま下降しながら口を開け、翔斗の頭から丸飲みにしようと急降下してくる次の瞬間、空が一瞬光ったと思うと、雷が大百足に直撃した。

 大百足は大きな不気味な奇声を発し、空に向かい飛び上がり、再び奇声を上げると、空間に亀裂が入り、そして砕け、その中へと消えて行った。

 大百足が消え去ったあと、空間の亀裂は修復され、元の状態に戻った。

 翔斗は呆然としたまま動こうとせず、肩から多量に流れる血により、意識が遠のき、そのまま気を失った。

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