第5話 葬式
帰宅するとすでに母は不在、おそらく式場にすでに出かけているのだろう。
翔斗も慌てて自室に上がり、クローゼットを開き、礼服と数珠を取り出し、すぐさま着替え、支度を進めた。
斎場は自宅から徒歩5分で行ける場所にあるため、歩いて行くことにした。
時間は午後6時を過ぎ、空は少し暗くなり始めている。
翔斗が斎場に入ると、すでに通夜は始まっており、お坊さんがお経を読誦していた。
家族葬なので、そのすぐ後ろの席で母が一人だけで、ハンカチを目に当てすすり泣いていた。
母の隣に座り、遅れたことを謝罪するが、母からは返事はなく、ただただ悲しみに打ち拉がれていた。
通夜が終わり、母と共に、斎場で宿泊する事に。
二人共、悲しみや混乱、そしてこれからの不安からか、言葉を発さず、ただ無言で時間だけが過ぎていく。
翔斗は疲れからか、いつの間にか眠りについていた。
朝日が差し込み、眩しさで目を覚ますと、目の前では父の写真を握りしめ、今も泣きじゃくる母がいた。
「母さんのせいなの……父さんは母さんと出会わなければ、こんな事には巻き込まれなかったの…… 全部母さんが悪いの。母さんが父さんと結婚しなければ」
翔斗は母の肩を軽く叩き、話しかけた。
「母さんのせいな訳ないじゃないか。あんな事、普通は考えられないし、現実的にありえない事で、ありえない事が起こったんだから」
「違うのよ翔斗、母さんの血筋が、きっと化物を呼んだの」
母の言ってる意味が分からずにいると、母が小さな声でボソッと何かを口にした。
「こんな時、お父さんが生きていたら……」
母のお父さんって事は、おそらく祖父の事だろう。
なぜ祖父の話が出るのか、何んのことかも分からず、ただ黙って頷いた。
翔斗のスマホから着信音が鳴り響く。
スマホを手に取り、画面を確認すると、見たことのない番号が表示されている。
基本、非通知や知らない番号は無視するのだが、今回は無意識に通話ボタンを押していた。
もしもしと応答すると、通話の相手は真美の母からで、声を震わせながら話す内容は、真美の容態が悪化し、危険な状態だと言う。
隣で話を聞いていた母が、告別式は一人で良いから、行ってあげなさいと言った。
悲しみに苛まされている母を置いて行くことには罪悪感があり、実の父とのお別れの式に出席しないという罪悪感もあり、そして祖父の事にも少し疑問があり、ここを離れるのが得策なのか分かりかねるが、人の命が危ない時に、行かないのはあり得ないと思い、母にゴメンと一言言い、自宅に戻り礼服のまま車に乗り込み、病院へと車を走らせるべくアクセルを踏み込んだ。
天気はドンヨリと曇り空で、少し黒い雲は、薄気味悪ささえ感じられた。
信号で停車し、青信号になり、この交差点を左折すれば病院という時に、後部で何か車に衝突したのかと思う大きな音、衝撃がおきた。
すぐに車を左端に停車させ、降車して見てみると、昼間玉突きされたバンパーが外れ落ちてボルト一本でぶら下がっていた。
もう病院は目の前なので、車はここに置いて自分の足で行く事に決め、翔斗は走り出した。
正直、どのツラ下げて真美に会えばいいのか考えていた。
真美に別れを切り出され、真美が交通事故に遭い、10年前に健也を喰った大百足に襲われ、見知らぬ巫女に救われた、そして振られたばかりにもかかわらず、恋をしている。
頭がまったく整理出来ていないけど、真美の無事を祈りながら、全速力で病院に足を踏み入れた。
全速力で走るなんて学生の時以来だなんて考えながら、階段を一個飛ばしで駆け上がり、真美の病室のある三階にたどり着いた。
荒れる息を整えつつ、病室の前に到着し、ドアに手を掛けた時、あの不気味な異様な音、大百足の音が聞こえた。
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