第4話 巫女

「う……う……ん」

 頭が重苦しく感じる。

 ゆっくりと目を開けると、そこは自宅の自室で、どうやらベッドで寝ていたようだ。

 夢だったのか? 大百足、健也、父さん、巫女、学校、なんだったんだろう、なんて寝ぼけた頭で考えていると、誰かが階段を上がってくる足音が聞こえ、部屋のドアが開かれると、そこにいたのは母だった。

 「翔斗、あんたこんな時にどこへ行ってたんだい? 父さんがあんな死に方して、あれから警察は来るは、事情聴取や現場検証やらで大変だったんだよ」

 母は意外と冷静だ。

 翔斗は昨夜の事を現実であった事実を母に突きつけられ困惑してきた。

「今日はお通夜で明日が告別式だからね、礼服、支度しときなよ」

 母はそう言い、部屋を出て行ったが、翔斗はまだ現実を受け入れられず、呆けていた。

 昨日の事は現実で、父は大百足に喰われ、10年前に健也を喰った大百足に襲われ、巫女に助けられた事、そしてあの巫女はいったい何者なのか、変な術を使って大百足の一匹を退治していた。

 あまりにもハードな出来事がありすぎて、翔斗は頭の中で処理しきれていなかった。

 午後1時、通夜まではまだ時間があるので真美の入院している病院にお見舞いに行こうと準備をし家を出た。

 病院までは車で30分、翔斗自慢の赤のスポーツカーに乗り込み、キーを刺し、エンジンを掛け、出発。

 音楽のボリュームを上げ、曲にノリ、あまり色んなことを深く考えないようにした。

 移り変わる景色を眺めながらアクセルを踏み込むと、エンジン音と共に、頭の中が無になれた。

 突然、頭の中にポチャンと水滴が水溜りに落ちる音が聞こえる。

 音楽を大ボリュームで聴いているはずなのに、なぜか聞こえるその音は、まるで頭の中に直接聞こえるような気もした。

 眩いばかりの光が、翔斗の車の後方から放射され、瞬きした瞬間、そこはまた真っ白な世界。

 右も左も何も分からない白の世界で、翔斗は車を停車させ、ドアを開け、外に出た。

 そこにはやはり巫女が立っている。

「大丈夫ですか?」

「僕は大丈夫ですが父が……」

「憎いですよね?百足が。父やお友達を喰らった百足が。ですが、憎しみは負の感情を生み、百足は喜びます。どうかその憎しみを誰かを守る優しさに変えて、力にして下さい。」

「あなたは誰なんですか? 僕はどうすれば?」

 何んの力もない、無力な自分に何が出来るのか、出来る事なんてないのじゃないのか、ただ逃げて、いつか喰われるだけだと思えていた。

「大丈夫、私はあなたの味方です。心で私を呼べば、私はいつでもあなたの前に現れます。そしてあなたを守ります」

 翔斗には、この何者かも分からない巫女がなぜ自分を助けるのか理解出来ないが、それでもその言葉が凄く嬉しかった。

「ありがとうございます」

「今日、あなたの前に現れたのは、危機をお知らせするためです。百足の気配が無数に感じられるのです。どうやら産卵した卵が孵化しようとしているのかもしれません。ヤツらは年に一度、400から500の卵を産みます。そして孵化させるには人間の胎内が必要になり、人間の女の腹に卵を植付けます。その後、10年の歳月をかけ、卵が孵り、子百足はその人間の女の腹を引き裂き、この世に出生される。」

「そんな…… いったいどうすれば……」

 これから起こるであろう信じられないような出来事を巫女に教えられ、恐怖に怯える翔斗を見て、巫女はその手を翔斗の頬に優しく触れ、大丈夫だと翔斗を安心させようとした。

 翔斗は抑えきれない感情にかられ、巫女に抱きついた。

 サラサラの髪の毛に、優しい香りがし、顔と顔が触れ合い、とても気持ちよく、恐怖と欲望が入り混じり、翔斗は巫女をその場で押し倒した。

「翔太さん……」

 翔斗は無言夢中で巫女に激しくキスをし、両手で巫女の両手を強く握り、身動きが出来ないようにした。

「我慢出来ないよ。僕、あなたが好きだ」

 そう言って翔斗は巫女の衣服を無理やり脱がせ、真っ白な透き通るような白い胸が露わになり、右手で優しく揉み、左手は巫女の右手を掴み、またも激しくキスをする。

「翔斗さん、いいよ」

巫女が優しく微笑み、翔斗も欲望を止める事なく、その手を下半身に進めていったその時、激しい衝突音と衝撃が身体中に響き渡り、一瞬にして目が覚めた。

「ここは……?」

 どうやら現実世界に戻ってきたようだ。

 しかも後ろから追突事故をされ、お気に入りの赤のスポーツカーの後部はかなり破損していた。

 しかも鞭打ちになったのか首が少し痛い。

 後ろから追突してきた車は、黒の軽自動車で、運転手が、降りてきて、翔斗のほうに駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?すみません、仕事に遅刻しそうで急いでいて」

 警察が呼んで、事故の説明をし、そのあとは本人たち同士で話してくれとの事だったが、時間を確認すると、すでに夕方5時半、6時から通夜なので、すぐに帰らなくてはいけなくなったので、とりあえず連絡先の交換をし、あとで連絡するという形にした。

「名前、たつのあまねって言います。天の音って書いて天音です」

「僕は高井翔斗、また連絡します」

 そう言って翔斗は自宅へと破損したままの車を走らせた。

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