第2話 過去の傷
夢の中、翔斗は真っ暗闇の中に1人立ちすくんでいた。
ギチギチギチギチと不気味な異様な音が聞こえ、そして何者かが呼ぶ声が聞こえる。
「翔斗……翔斗……」
その声は、どこかで聞いたことのあるような気がする。
「なぜ、俺だけが…… どうして助けてくれなかった? どうして見捨てた?」
翔斗は何の事か分からず、ただその声を聞いていると、その声は次第に大きくなり、翔斗は耳を抑ぎ、蹲み込んだ。
その時、足首を誰かに強く掴まれる感覚が襲い、翔斗は大声をあげたと同時に、夢から目覚めた。
「ここは?」
翔斗はキョロキョロと周りを見渡すが、そこはいつもと変わらない、散らかりっぱなしの自分の部屋。
コンッと窓に何かが当たったような音がなる。
眠た目を擦り、カーテンを開き、窓を開けると、何者かが街灯のそばで立っている。
そしてその人間を見て翔斗は驚いた。
それは、10年前に行方不明になった、健也だった。
しかも健也はその当時のままで、学ランを着て、15歳の幼いままの顔立ち、そして窓から顔を出す翔斗を睨みつけている。
その睨みつける顔があまりにも不気味にも感じ、翔斗は窓を閉め、体育座りになり、硬直し、ガタガタと震え上がった。
なぜ健也があの頃の姿のまま生きているのか?なぜ自分の家の前にいるのか?幽霊なのか?それとも幻覚なのか?頭の整理が追いつかない。
考えていても答えは出ない。
意を決して、翔斗は立ち上がり、玄関を出た。
しかしそこには健也の姿はなく、どこからともなく、またあの不気味な異様な音が。
ギチギチギチギチ
その瞬間、自宅から悲鳴が響き渡る。
翔斗は慌てて家の中に入り、リビングへ。
そこには血塗れで口をパクパクとしている母の姿があり、その向かいには、肉片らしきものが飛び散っていた。
「母さん‼︎どうしたの?」
翔斗は母の体を揺すり、質問した。
「父さんが……父さんが… 食べられた……」
明らかに混乱しているのが分かる。
翔斗……
頭の中で、誰かが呼ぶ声がする。
もう一度、玄関を飛び出ると、道の先に健也が立っている。
「健也‼︎」
翔斗は健也を大きな声で呼び、健也のほうに走ったが、健也は逃げるように翔斗に背を向け走り出す。
もう少しで追いつく、手を伸ばし健也を捕まえれそうになったその時、健也は消えた。まるで煙のように。
そして周りを見てみると、そこは翔斗と健也、そして真美の通っていた中学校だった。
夜の校舎というのは薄気味悪い、月あかりに照らされる校舎や校庭の木々の影が、何か不気味に感じる。
校舎の三階に人影が見える。 もしかして健也なのか。
正直、夜の校舎なんか入りたくない……
けど、さっきの出来事、そして真美の時も同じ音が聞こえた。
きっと健也が関係している。そう思うと怖いけど、後には引けない気持ちになり、校舎に足を踏み入れた。
校舎の中に入った瞬間、またあの不気味な異様な音が鳴り、身体中に悪寒が走り、鳥肌がたつ。
ギチギチギチギチギチ
ダメだ‼︎ そう思い、校舎から出ようとするが扉を押しても引いても開かない。
翔斗……
また頭の中で自分を呼ぶ声が聞こえる。
もう観念して進むしかない。
恐る恐る、廊下を歩き、健也らしき人影の見えた三階を目指す。
自分の歩く足音が、校舎中に響き渡り、なんとも不気味だ。
階段を上がり三階に辿り着いたとき、生温かい風が吹き抜け、体に当たるその生温かさが、人肌の温かさにも似たようにも感じる。
気が変になりそうだ。
そして人影の場所に到着したが、そこに健也はいない。
またあの不気味な異様な音が鳴る。
ギチギチギチギチギチ……
それは今、自分が立っている目の前の教室から聞こえる。
そしてその教室のドアの上にある表札、3-5、過去、自分たちがいたクラスだ。
翔斗はゆっくりとそのドアを開く。
なんとそこは、たくさんの生徒達がいる。
そして10年前の自分自身がいる。
10年前の光景そのままがそこにはあった。
同級生に頬をつねられ苛められる過去の自分。
それを止め、あんたもやり返せと言う真美。
少し離れた所で知らん顔をする健也。
「なんだよこれ……」
忘れていた、忘れたかった過去を目の当たりにし、翔斗は膝をつき頭を抱える。
どこからか、声が聞こえる。
憎いか?悔しいか?恨めしいか?
憎め‼︎ 悔め‼︎ 恨め‼︎
虐めた相手を‼︎ 被害者を責める者を‼︎ そして傍観者を‼︎
涙を流し苦しむ翔斗。
「うあーーー」
その声は構内中に響き渡るくらいの叫び声だった。
ギチギチギチギチギチ
またあの不気味な異様な音が背後から聞こえる。
振り返ると、そこは夜の誰もいない教室に健也がただ立っている。
「憎め‼︎ 恨め‼︎ 全ての人間を、お前を罵倒した人間を、お前を蔑んだ人間を、そしてすべての傍観者達を。 そして絶望しろ‼︎」
翔斗は座り込み、見せられた過去の悲しみや苦しみに苛まされ、動く事が出来ない。
ギチギチギチギチギチ
不気味な音と共に、健也の体の皮膚が肉が裂け、まるで脱皮するかのように、昆虫のような皮膚が中から姿を見せてくる。
肉が引き裂ける不気味な音が鳴り、健也の体は真っ二つに裂け、その中から普通ではありえない大きさ、10メートル以上はあるであろう大百足が現れた。
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