コロッケ


 爆発した。コロッケとは爆発する食べ物だった。


 駅ナカデパートのお惣菜街は炎に包まれる。あたりが真っ赤に染まり、目も開けられない。


 コロッケ。同じクラスの仲島くんと、コロッケを食べなくちゃ。


 私の頭は何度も何度もそう考えて仕方がなかった。それに違和感を感じつつも走り出す足を止められないのは、これが夢の中だからだろう。


 夢の中で、これは夢だと気づくことがある。今がまさにそれなのだ。


「仲島、仲島くん!」


 必死に名前を呼ぶ。仲島くんの下の名前は隼人。隼人くん。心の中ではたまーに呼ぶけど口に出したことはない。そうしたくても、この感情は私の一方通行だった。


 黒い煙の中を走り続ける。すると、見慣れたブレザーの制服と後ろ姿が見えた。あれは絶対そうだ。息を切らし、足を速める。彼の背に向けて手を伸ばす。


 私の手より先に、彼の手を握る女の手があった。


「隼人くん!」


 同じクラスの早里さん。確か、高校2年になってすぐの生徒会選挙で、管理委員会として仲島くんと一緒に体育館の整備してた。


 私は友達に誘われ、クラスマッチ委員になっていた。あのとき無理やりでも選挙管理委員会にしておけば。


 ふと辺りを見渡す。私の周りにだけ炎があり、2人は何の変哲もないデパ地下を、手を繋いで進んでいく。


 結局、この炎に焼かれるのは私だけらしい。私の知る限りでは、この気持ちはひどく嫉妬に似ていた。


「……仲島くん、私の方が先だったんだけど」


 小さく呟く。また、コロッケが爆発する。








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