第16話 母「トオルは本当に旅に出たいの?」
ホンダを引き連れて、トオルは家に戻ってきた。
チャイムを鳴らす。
「はーい! どちらさま……っっっ!?」
カーサンが玄関をあけて来客を出迎える。
しかし、チャイムを押したのがホンダだと分かると、一瞬だけあからさまに嫌な顔をした。
「どうも。こんにちは。引っ越しの時の挨拶以来ですな。」
そんなカーさんの態度を全く気にするそぶりもなく、ホンダは簡単な挨拶をする。
普通に挨拶を返されて少し気まずそうにしながら、「そうですね……」と返す。
「いえいえ。レイジや私の方がお世話になっていますよ。」
「あっ……トオルがいつもお世話になってます。」
大人の挨拶はなんともまどろっこしい。
子供ながらにトオルはそんな事を思っていた。
「えっと、それで本日は何のご用件でしょうか?」
「いえね、今日はトオル君について話をしたくて伺ったんですよ。」
「は、はぁ……」
「トオル君の今後についてですよ。お時間大丈夫ですかな?」
ホンダの言葉を聞き母は戸惑いから怒りの感情を露わにする。
トオルの方を一瞥して、まくし立てる。
「やっぱり! 貴方がトオルを焚き付けたんですね!?」
「そこも含めてお話しをしたく考えているのですよ。」
「私はお話しするなんてありません!!!!! 二度とトオルに会わないでください!!!」
大きい声で母は叫ぶ。
「ねっ。玄関でも話すのもなんだし家の中で話そうよ。」
「トオルは黙ってなさい!!!」
「急に旅に出たいと言い出したり、ホンダさんの話をしたりと可笑しいと思ったのよ! 人の息子を誑かしてなんのつもりですか!?」
ホンダは微笑みを絶やさず母の話を聞いている。
そんな態度が余計にいらだたせるのだろう。
母はどんどんヒートアップしていく。
いつしか対象がホンダからトオルに代わっていく。
「トオルもトオルよ! 私のいう事を聞いていればいいの!! なんで、それが分からないの?」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ母を静止して、ホンダが母の話に割って入った。
「私が、トオル君に旅を勧めたの事実ですよ。それが御宅の家庭に不和を生じさせてしまった事は謝罪するしかありません。大変申し訳ない事をしてしまった。」
ホンダが深々と頭を下げた。
その態度に、母も止まってしまう。
しかし、ホンダは続ける。
「して、お母さんはトオル君を自分の手元に縛ってどうしたいのですか?」
「トオルを手元に縛る? 私はそんな事してません!!」
「トオル君は優しい少年です。自分の夢を我慢してお母さんと居た方がいいのではないかと悩んでいます。お母さんを悲しませなくないと……この歳でここまで人を思いやることのできる子はなかなかおらんでしょう。」
母は黙って博士の話に耳を傾けている。
「貴女の育て方が良かったのでょう。トオル君は真っ直ぐ育ってます。だから、旅に出ても大丈夫。色々な出会いを大切に出来る子です。今は、お母さんがトオル君から離れる勇気を持つべきです。子供はいつまでも子供ではありません。いずれ独り立ちをする時がくる。そのタイミングは本当にいきなりやってくるのです。貴女はトオル君の気持ちを知っていますかな?」
「トオルの気持ち……」
母はホンダからトオルに視線を移して僕をじっと見つめながら質問を投げかける。
「トオルは本当に旅に出たいの?」
「うん!!! 僕はレイジやツバサ君のように旅に出たいよ! いろんな経験をして成長して、もっともっと大きくなりたい!」
それはトオルの心からの言葉だった。
気持ちを全部載せて母に伝える。
「そう……」、何かを悟ったように物憂げな感情を露わにして、つぶやく。
「ねぇ。トオル君は先を見ている。貴女はどうしますかな?」
「トオルはいつのまにか大人になっていたのね。わかりました。ホンダさん、この子の旅立ちを手助けして頂けないでしょうか? お願いします。」
母がホンダに頭を下げる。
「それは当然、お任せくださいな。私も最大限手伝いしますぞ。こどもは本当に成長が早い。親が知らぬ間に大人になっているものです。」
「えぇ……本当ですね。昨日まで私の言う事を聞くいい子だと思ってたんですけどね……」
「そうそう。一人で家にいるのが寂しいならこの子と過ごしてはいかがでしょうか?」
そう言うと後ろについてきていた眼帯メイドが軽く会釈をする。
「え!? その子はなんですか??」
「この子は眼帯メイドと言うムスメですよ。この子は聞き分けも良くて家事も得意でしてね。トオル君が居なくて寂しくなる気持ちを少しでも解消できればと思いまっています。」
眼帯メイドが母に近づき、胸を叩きながらお任せをというようなポーズを取る。
「へー……結構可愛いんですね。」
眼帯メイドは気恥ずかしそうに俯いしまった。
ホンダが母を説得してくれた。
トオルの決意も固まった。
その日の晩御飯、トオルは母と一杯一杯話をした。
――ホンダとの出会い
――レイジとツバサ君のやっていたムスメイトバトルの楽しさ
母はニコニコと僕の話を聞いてくれる。昨
日までの喧嘩騒ぎが嘘のようだ。
(明日もホンダ博士の所に行こう。)
その日の夜、トオルは布団に入るとゆっくりと深い眠りについた。
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