第15話 トオル「博士……僕はどうしたらいいのかな?」

 二人が旅立った日。

 家に帰ったトオルは、テーブルに座らされていた。

 目の前に座る母が真剣な眼差しで見つめている。

 先に口を開いたのは母だった。


「何処に行っていたのかしら?」

「今日、僕、レイジ達が旅立つを見送ったよ。」

「朝出ていったと思ったら、ホンダさんの家に行っていたのね…… 樹林に入ったんじゃなくて安心したわ…… もう良いわ……」


 トオルの答えに呆れながら、母は頭を抱えて答える。


(ここで言わないと駄目だ……!)

 

 トオルは意を決して自分の思いを母に伝える。


「やっぱり、僕もレイジやツバサ君みたいに旅に出たいんだ!」

「ダメよ。まだそんな事を言ってるの?」


 分かり切っていた回答。

 ここでめげては駄目だとトオルはめげずに思いを伝える。


「反対されても絶対に行くよ!」

「旅なんてどんな危険な目にあうのか分からないじゃない。お母さん心配よ。」

「危険な事は承知の上だよ!」


 二人の間に静かな空気が流れる。

 ぼそりとトオルがつぶやく。


「僕はもう覚悟の上だよ……なんで、カーさんは何でそんなに駄目だって言うの……」


 母がぐっと息を溜めて、吐き出した言葉を紡ぐ。


「……嫌なのよ。トオルが危険な目に合うのもだけど、お母さん、一人になるのがもっと嫌なの……お母さんを一人にしないでよ、トオル……」


 母の目には涙を浮かんでいた。

 トオルは息を飲み込んだ――


(カーさんは寂しかったんだ。)

(……ごめんなさい…… 僕…… 僕…… 自分の事ばっかりを考えていた……)


 その日の夜はベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。


 ――初めて目の前で見たムスメイトバトル

 ――友人達の旅立ち

 ――母の気持ち

 ――夢


 色んな話がぐちゃぐちゃに混じって期待や不安や心配でいっぱいになってしまった。


 次の日。

 いつもと変わらぬように用意された朝食を頬張り、「今日もホンダ博士の家に行くね。」って伝える。

 出ていくトオルに母は「そう。」っと応じてそれ以上は何も聞かなかった。


 朝早くにも関わらず、ホンダは快く僕を迎え入れてくれた。

 そして、母の事を相談した。


「……そうか。そうじゃな。お母さんは息子の旅立ちが寂しいのかのぅ……その気持ちは凄くわかるのぅ。」


 博士は何度も頷き、僕の話に耳を傾けてくれた。


「博士……僕はどうしたらいいのかな?」

「――うん。トオル君はどうしたいのかのぅ。」

「僕は旅に出たい!! でも、カーさんも泣かせたくないんだ……」

「うん。うん。優しいトオル君らしいのぅ。まぁ、どっちもできれば良いが、今はどちらかを取らねばならぬのぅ。」

「どっちか……」


 トオルは頭を悩ませる。


「トオル君が選んで良いのじゃよ。大丈夫。君の行く道は君が決めてよい。」


 うーん。色々な思いが巡る。

 不安と期待。

 そして、決心して博士に伝える。


「僕はムスメイトマスターになりたい!!! 初めてできた夢なんだ! だから、旅に出る!!!」

「よし! 良くいった、トオル君。ならば私もお母さんへの説明を手伝ってやるぞ。」

「いいの!?」

「大人にしかわからぬ話もある。眼帯メイド、出かける準備をしてくれ。」

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