第9話 レイジ「ツバサ! 爺様に貰ったムスメイトでバトルしようぜ!」

 研究室はとても広かった。

 そして、事務室とは異なり綺麗に整頓されているようだ。

 不思議な機械や何やら大きなステージもあり、まるで異国の地に来てしまったようだ。

 トオルがあっけ取られていると、ホンダが話しかけてくれる。


「どうじゃ? 私の研究所は広いじゃろ?」

「はい! まるで別の世界に来たようです。」

「あっはっは。異別の世界か! トオル君は面白いこと言うのぅ。」


 研究室の中をじっくりと見渡すと一つ気になる機械があった。

 その機械は、人が一人が入るくらいの円筒の半透明なガラスが付いていた。

 その中は何かのオレンジ色の液体でいっぱいに満たさせている。

 その液体が満たされたガラスの中には人の体らしき黒い影が浮いていて、時折、小さな泡が出て、消えて、を繰り返している。

 同じような装置が隣にも2つあった。


「ほほぅ、それが気になるかな?」

「えっ!? はっ、はい。何だろうと思って……」

「それは簡単に言うとムスメの休息室みたいなものじゃ。今では大きな町には【ムスメイトステーション】と呼ばれる店舗があって、ムスメの心身ともに休めさせる事ができる。そこで使われている装置なんじゃよ。ムスメイトステーションはマスターが格安で泊まれる場所でもあるんじゃよ。」

「そうなんですね。」


 この田舎では聞いた事もない施設だった。

 ツバサの住む隣町もそこまで大きな場所ではない。

 そのため、トオルにとっては未知の世界に感じられた。


「凄く目を輝かせておるのぅ。」

「はい! こんな機械見たことないです。そっか、こんなものが世界にはあるんだ……」

「トオル君、旅はいいぞ。時の旅は色んな経験をさせてくれる。知らなかった事を知れたり、色んな人と出会ったりの。楽しい事、嬉しい事もいっぱいじゃ。勿論、怖い事や、苦しい事や、辛い事も色々経験するじゃろう。でも、旅で得られた経験は何物にも勝る。私はそう信じとるよ。」

「ホンダさんも旅をしたことがあるんですか?」


 ホンダはしみじみと語る。


「そうじゃな。レイジや君達と同じ位の歳に旅に出たのぅ。光の雨が降る山、氷で出来た島、燃えている森。あの時は青春じゃった。」

「ほえぇ……ホンダさんは親に反対されなかったんですか?」

「あっはっは。そりゃ大反対も大反対じゃったよ。」

「どうして反対されたのに博士はどうして旅にでようと思ったんですか?」

「それは……私が旅に出たかったからじゃな。」


 ホンダさんは優しい微笑みを浮かべながら、僕を諭すように教えてくれた。

 もっとこの人の話を聞きたい。

 トオルはそう思った。

 他に何を聞こうか逡巡している時、研究室の扉が開き、レイジとツバサの二人の自分が入室してきた。


「爺様、ツバサがきたぜ」

「ホンダ博士、遅うなってしもうて申し訳ない。母ちゃん煩すぎやねん……」


 ツバサは謝罪をする。二人にもホンダさんは微笑みを絶やさず話を始める。


「よいよい。親御さんの心配ももっともじゃ。じゃが、ツバサ君は今日旅立つことの決心は揺らいでないでおろうか?」

「はい!!! 当然やんけ!!」


 ツバサは大きな声ではっきりと返事をする。


「レイジ、ツバサ君、勇気ある二人若人の旅立ちを助けるために、私はプレゼントをしたいと思ってのぅ。」

「えっ? マジ? 爺様、気が利くじゃん。」

「ほんまか!? やったー!!!!」


 二人は大きく喜ぶ。

 そして博士はさっき僕が見ていた装置の前に移動する。3つのカプセルの中にそれぞれ黒い人影が浮かんでいる。


「二人へのプレゼントはムスメイトじゃ。」

「「マジっ!?!?!?」」

「3つのカプセルから好きなムスメを選んでおくれ。」

「やったー!!! 俺は真ん中の奴!!!」

「ワイは左端や!!!」


 レイジは真ん中のカプセル、ツバサ君は左端のカプセルを選ぶ。

 カプセルが開くと、装置の中で休んでいたムスメが姿を見せる。

 レイジの選んだムスメは、金色の髪の毛を二つに縛りしてくるくると巻き毛にしている。少し釣り目気味の目からはきつい印象も受ける。

 ツバサ君が選んだムスメは、青い長い綺麗な長髪をしたムスメ。ゆっくりと開いたは瞳は強く光っており、凛っとした雰囲気を纏っている。


「レイジが選んだのは【ツンデレ娘】でツバサ君が選んだのは【クー子】じゃな。二人とも良いムスメイトを選んだのぅ。あっはっは。」

「「おお!!!」」


 初めてのムスメイトに抱き着き二人は喜びをあらわにしている。


「いいなぁ……」


 トオルの羨望の眼差しを気にする様子もなく、レイジがツバサに話かける。


「ツバサ! 爺様に貰ったムスメイトでバトルしようぜ!」

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