第8話 レイジ「だぜ! 俺も目指せチャンピオンだ!!」

 田舎にそぐわぬメカメカしい建物が立っている。ここがホンダの家だ。


(初めて来た……)


 景観を壊すようなその建物も小さな入り口がある。

 恐る恐るチャイムを鳴らす。

 一人の少年が顔をだす。


「おっ、よく来たな。ツバっ……ってトオルかよ。お前、よく来れたな。」


 ホンダさん……の孫のレイジが顔を出す。

 目立つツンツンとした髪の毛を立たせて、茶髪に染めた目立つ髪。

 トオルを見て生意気そうな顔を驚愕の色に染める。


「レイジ。おはよう。」

「おう、おはよう。で何のよう?俺、これから少し忙しいんだよな。」

「旅立つんだよね? 僕、知ってるよ! だから見送りに来たんだよ。」

「えっ、何で知ってるんだ?」


 玄関先で話しているとレイジの後ろからホンダさんが顔を出し、挨拶をしてくれる。


「おぉ、よく来たのぅ、トオル君。」

「ホンダさん! おはようございます!」

「爺様とトオルが何で知り合いなんだ?」


 状況がわかっていないレイジはホンダさんとトオルが知り合いであることに驚きを隠せないようだ。

 今まではホンダさんに会おうって話になると、母の邪魔が入っていたのだから当然だ。

 レイジに昨日の端末を話す。


 ――


「へぇ、そんな事がねぇ……上がって行けよ。しっかしツバサの奴は遅っせーな。」


 昨日の事があって揉めてるのかなとトオルは思った。

 案内された部屋はホンダさんの事務室との事らしい。

 机の上に大量の紙や本が散乱していて、田舎にある村でもホンダの忙しさを物語っているようだ。


「爺様、こりゃ酷い散らかりようだな。自分でも片付けろよな。【眼帯メイド】も大変だろ。」


 部屋の中ではメイド服を着たムスメが小さい体を忙しなく動かして部屋の片付けをやっていた。


「散らかっててすまんのぅ。さっさっ、二人とも好きな所に適当に座って、リラックスしておくれ。儂はあっちでゆったりしとるでな。」


 そういうと、ホンダは別の部屋へと消えていった。

 レイジは足の踏み場もない部屋の中に入ると、適当に物を動かしてスペースを作り座り込む。

 レイジと同じように部屋に散乱する物をどかして座った。


「トオル、あれ見た? 俺の貸したムスメイトバトルの全国リーグの映像。」

「見たよ! 凄かった!!!」

「あのチャレンジャーは当時は今の俺らと同い年くらいなんだぜ! 流星の如く現れて突然チャンピオンになっちまった。」

「そうなんだ! やっぱりすごい人だったんだね!」

「そうそう。」

「攻撃のタイミングとかマスターとムスメの息がぴったりなんだもん。攻撃のタイミングとか、まるで分かってたんじゃないかってくらい綺麗に動いてたもん。」

「あの人は今は色んな大会で入賞しまくりのスーパーなチャンピオンなんだぜ。なんでも伝説級のムスメと出会ったりしてるとか逸話があるくらいなんだぜ。」

「伝説級って?」

「あぁ。『ネームド』って爺様が言ってたな。俺には意味は分からんけど。」

「それにあの人にはファンも多くてさ都会じゃ超有名人なんだぜ! 俺もサイン貰った事あるんだぜ!」


 レイジは饒舌に話す。

 自慢の多いレイジだが、ムスメの話には、トオルも興味を持って聞いていた。

 うんうんと聞くトオルの二人の間に、眼帯を付けた小さなメイド服を着たムスメがトオルとレイジの間に割り込み、持っていたお盆からお茶を差し出す。


「ありがとう… えーっと……」

「その子は【眼帯メイド】だぜ。メイドムスメは身の回りの世話をしてくれてるんだ。」っとレイジが補足をしてくれる。

「そうなんだ。ありがとね。【眼帯メイド】ちゃん!」


 頬を朱に染めて、ぺこりと頭を下げると、そそくさと立ち去ってしまった。


「あの子、恥ずかしがりやなんだよ。」

「ムスメにも個性があるんだね。やっぱり危険じゃないじゃないか。」

「今やムスメが危険なんて、信じてるの田舎くらいだぜ……」

「むぅ……」


 トオルの反応を見てしまったという顔をしながら、レイジは暖かいお茶を口に含む。

 一息ついて話を続ける。


「でさ。あの人が勝利インタビューで言ってたんだよ。旅をして色々冒険する事でチームはより強く固い絆で結ばれるってさ。だから俺らも旅に出ようって話をツバサとしたんだよな。」

「へぇ。そうなんだ。だから旅に出るんだね!」

「だぜ! 俺も目指せチャンピオンだ!!」

「いいなぁ……」

「そういえば、トオルのお母さんはここに来るの大反対してたろ。今日は大丈夫なのか?」

「多分、カンカンに怒ってると思う…… でも、僕もカーさんの言うことを聞いてるだけじゃダメだって思ったんだよね。」

「そっか。家庭の事情があると大変だよな。ツバサの奴は、大丈夫なのかな? あいつ『大丈夫やろ。』とか適当に言ってたけど。」

「うーん……」


 昨日の様子だとツバサも難しいだろうとトオルは思わずにいられなかった。

 フォローをするべきか悩んだ結果、トオルは話題を変える事にした。


「でもさ。レイジはこんな広い家にホンダさんを一人にしていくのは不安じゃないの?」

「うーん……別に爺様は一人じゃないしな。この家には【眼帯メイド】もいるし。」


 部屋の片付けをするメイドを見ながらレイジは呟く。

 自分の話をされていることに気がついたメイドは顔をこちらに向けると。深々と一礼して自分の作業に戻る。


(昨日のホンダさんの話だと淋しさもあると言っていたけど、レイジには言ってないのかな?)


 雑談をしていると、誰かの来訪を知らせる玄関のチャイムが鳴らされる。


「おっ、ツバサかな? 迎えに行ってくるわ。」


 レイジは来訪者を迎え入れるべく立ち上がる。


「おーい! 爺様! トオルと先に研究室の方に行っててくれよ!」

「わかったぞ! レイジ、待っとるぞ。」っと遠くから返事が聞こえると、ホンダが事務室に顔をだす。

「それじゃ、トオル君。私らも研究室の方に行こうかの。」


 トオルは小さく返事をしてホンダについていく。

 ホンダに案内されるまま、僕は研究室に向かった。

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