第7話 トオル「なんでそうなるの! カーさんの分からず屋!!」

 いつもの間にか眠りに落ちていたようだ。

 窓から注がれる朝日によってトオルは目を覚ました。


 リビングに降りると、母が朝食の準備をしていた。

 昨日のカレーの食欲を誘う匂いが、リビングに充満していた。

 しかし、トオルの顔は暗い。


「おはよう……」


 気まずさから尻すぼみの挨拶をする。


「おはよう。」


 母の返事はいつもと変わらない。

 まるで昨日の事など無かったか用に振る舞う。

 それが少しだけ、トオルに苛立ちを覚えさせた。


「ご飯はできているから早く席についちゃいなさい。」


 促されるままに、渋々とテーブルに着く。

 母も座ると、手を前で合わせて「頂きます」と言う。

 つられてトオルも同じように振る舞う。

 朝食を囲むテーブルの雰囲気は暗い。

 トオルも母も喋らず、黙々とカレーを食べる。

 沈黙を破るようにトオルは、ボソッと呟くように伝える。


「僕、今日はホンダさんの家に行くからね。」

「まだ言ってるの? 昨日、言ったでしょ。駄目。お母さんは許しません。」


少し頬を膨らませながらトオルは抗議する。


トオルの抗議を聞いて、母は「トオルはいつからそんな聞き分けの悪い子になっちゃたの? そんなにお母さんを困らせたいの?」と悲しい顔で言う。

「別に僕はカーさんに迷惑をかけたいわけじゃないよ……」

「なら、今日は家でゆっくりしてなさい。」

「なんでカーさんはそんなに反対するの?」

「何度も言ってるでしょ。ムスメなんて危険なものにトオルが関わらせるわけにはいきません。」

「むー…… 別に危険じゃないもん…… ちゃんと仲良くなれるよ…… そうだ。実は昨日ね――」


 昨日の事を思い出しながら、トオルは昨日の起こった事あらましを伝えた。


「そんなことがあったの!? 林には入っちゃ駄目って教えてたでしょ!」


「カーさん、ちゃんと聞いてた!? そこじゃないよ! ホンダさんは僕の恩人だし、ムスメも悪い子ばかりじゃないんだよ!!」

「それも、トオルが林に入っちゃったからでしょ? あそこは危険なのよ! ムスメにも襲われているじゃない!」


(カーさん、僕の話を全然、聞いてないよ…… なら別の方法で……)


「そうだ! 僕、レイジに借りてたビデオを返してくるよ! 今日旅立つんだもん。返せなくなっちゃうよ。」

「それはお母さんからホンダさんにお返ししておくわ。 林にも入っちゃった悪い子は今日はお家でお仕事よ。」

「なんでそうなるの! カーさんの分からず屋!!」


 取り付く島もないとはこのことだ。

 母の頑なな態度についにトオルの堪忍袋の緒が切れた。


「ご馳走さま!!!」、バンッと机をたたいてスプーンを置いて立ち上がる。

「あっ、トオル!!! 待ちなさい!!!」


 母の呼び止めを無視して、トオルはそのまま家を飛び出した。

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