第5話 トオル「ツバサ君はどうして旅に出るんだろう?」
博士とは別れた後、隣町にある商店にカレーの材料を買いに行った。
商店の中では店番をしているツバサと不機嫌なおばさん――ツバサのお母さんがいた。
「やぁ!ツバサ君、おつかれー!」
「おぉ、トオルやんか。おつおつー、今日はどうしたん?」
「あら、トオルちゃん、今日はゆっくりしたってねー。」
二人の挨拶が少しぎこちないような感じがした。
ヒソヒソ声でツバサにも話しかける。
「僕はカレーの材料を買いにきたんだよ。それに『どうしたの?』はこっちの台詞だよ! なんかおばさん不機嫌じゃない?」
「あー……」
ツバサは顔を横にずらして言葉を詰まらせた後、しぶしぶと教えてくれる。
「実は明日な、旅立とうと思ってん…… トオルにも言ってなかったんはすまんと思っとる……」
「えっ! おばさんにも言ってなかったの?」
「せやねん…… さっき言ったらブキギレ…… はぁ…… ウチは放任主義ちゃうんかと……」
「あらら……」
どんな顔をしてよいか分からず、キョロキョロと当たりを見渡してしまう。
「でもトオルは驚かんのな。」
「うーん、実は僕はツバサ君が旅に出ること知ってたよ!」
「ほんま? レイジから聞いたん?」
「ううん、さっきホンダさんから聞いた。」
「まじ!? トオル、やっとホンダ博士に会えたんか? しっかし、あのおばちゃんがよう許してくれたな。」
「いやいや、カーさんは駄目って許してくれないんだよ。でもここに来る途中、林の中に入っちゃってさ……そこで……」
僕は事の顛末をツバサ君に話す。
「へぇ…… 成る程なぁ。まぁ、ホンダ博士に会えて良かったんやない? 何事もプラス思考やで! そんでトオルを襲ったんムスメはどんな奴やったんか?」
「黒い蝙みたいな羽としっぽが生えてた! 僕ビックリしちゃったよ。ホンダさんが言うにはアクマムスメって言うらしいよ。」
「アクマムスメ! それレアな奴やん! あの林ん中におるんか!?」
「そうなの!?」
トオルが身を乗り出して話を聴こうと思ったその時、ぐーっとなってしまった。
「……もっと話を聞きたいけど、早く買い物して戻らないと……」
「せやな。まぁ明日、会おうや!」
「うん!」
ツバサとの話を終えて、店の中でカレーの材料を買い物かごの中に放り込んだ。
レジで会計をしていたおばさんが話しかけてくる。
「トオルちゃん、トオルちゃん。さっきツバサと話してたんよね。あの話は聞いたん?」
「明日、旅立つって事ですか?」
「そう。ほんま、何考えてんやろうね。はぁ…… こないな事になるなら、あのお爺さんに合わせるんを許可するんじゃなかったわ…… トオルちゃん家は偉いわー……」
「おばさんは反対なんですか?」
「そらな。ムスメみたいな危険なモンスターで遊ぶんだけならええ。何かに興味を持つのは子供の成長には必要な事やと私も思っとるしな。でもな…… まだ年端もいかない子供を旅に送り出すんわ、反対やわな。でも、あの子の様子じゃ反対しても家を飛び出すんちゃうかと思ってなぁ。はぁ……」
おばさんは大きく溜息を吐く。
「ツバサ君はどうして旅に出るんだろう?」
「さぁ、私も急に言われたから全くわからん。まぁ、あの子のことやから勢いやろなぁ…… やりたい事に一直線なんよねぇ。頑固というか…… それに比べてトオルちゃんは親に反対されたらやらないもの、良い子やね。トオルちゃんからも何か言ってやってや。」
(ツバサ君はお母さんが良いっていってるんだと思ってたけど、そうじゃないんだなぁ…… そうか…… ツバサ君は自分で決めたんだ。)
今までは自分のやりたい事でも、カーさんのいう事を聞いていたし、やらないようにしていた。
(でも、ツバサ君のように反対されてもやるって事も必要なのかな。 うぅ…… 僕に出来るのかな……)
「そうですね……」
歯切れの悪くつぶやいたトオルおばさんは怪訝な顔で見つめる。
その視線を避けるように、お金を支払い、買ったものを袋に詰め込む。
買い物を終えて店の外に出ると、「トオル―!!」っと呼ばれる。
声のする方を見ると店の2階にある自宅の窓から顔出したツバサが「また明日なぁ〜!」と手を振っている。
「うん!またね~!」
トオルが手を振り返えすと、ツバサが何かものを投げてきた。
パシッっと受け止めて確認すると、それはチョコレートがたっぷりコーティングされた菓子パンだった。
「それでも食いながら気ぃ付けて帰んやぞー!」
さっきの腹の虫を聞いたのでくれたんだろうか。
恥ずかしくなり、トオルは「もうっ!」って踵を返して帰路に着いた。
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