127.下山

 麒麟の結界の外。

 待機を命じられた四人は、心配そうに結界を見つめている。

 彼女たちの視点からは、俺が中へ消えていったように見えていたらしい。

 今の彼女たちには、中の様子が見えない。


「大丈夫かな?」


「心配いらないって! シンクが簡単にやられるなんてありえないし」


「そうだけど……もしものことがあったら」


 声を小さくするミルア。

 その様子を見て、自信有りだったキリエも揺らぐ。


「やめろよ、そんなこと言われたら心配になってくるじゃん」


「……行く?」


「中にってこと?」


 ユイがこくりと頷く。

 彼女も心配している様子が見受けられる。

 中が見えないのなら、いっそこのこと自分たちも入れば良いという提案。

 これに対してミレイナが言う。


「もう少し待ちましょう。わたしたちが入っても、咄嗟に対応できなければ足手まといになります」


「あたしなとミルアならいけ――あ!」


 キリエが気付く。

 結界を抜けて、俺が姿を現していたことに。


「シンク!」

「良かった! 無事だったんだ!」


 安心して駆け寄ってくる四人。

 ミルアは俺の手に握られた白い髭に気付いて、立ち止まってから問いかける。


「倒したの?」

「いいや」

「でもそれ、麒麟の髭だよね?」

「ああ。ちょっと事情が複雑でね。説明は下山しながらするよ」


 時間的にはギリギリだった。

 今から急いで下山すれば、何とか日の入り前までにエリアを抜けられるかもしれない。

 俺たちは早々に下山を開始する。

 その道中で、麒麟について説明してあげた。


「そんなことになってたんだね」


「んじゃ、あたしらは死体と戦ってたのかよ」


「一言でいえばそうだな。まぁあれは、死体と言うより聖遺物に近いと思うけど」


 死後も効果を発揮し続けるなんて、普通の生き物には出来ない芸当だ。

 話たびに感心しながら、俺たちは急ぎ足で下山する。


 そして、午後六時半。

 西の空に日が沈むタイミングで、俺たちは火山エリアを抜けられた。

 街に戻った時には、もうすっかり夜だ。

 ギルド会館で報告を済ませたら、いつもの居酒屋へ行って食事をとる。


「こ、れ、で! 後は何が残ってんの?」


 酒を飲みながら、キリエが俺に尋ねてきた。

 素材のことだろう。

 残っているのは、光のコア、グリフォンの羽、ポイズンスネークの毒袋。

 この三つは全て、次のエリアで得られる素材だ。

 後は水のコアだが、これは海岸エリアのモンスターで採取できる。


「次って熱帯林エリアだよな? 火山よりきついの?」


「いいや。環境的には暑いだけだし大したことない」


「ふぅ~ん、じゃあ楽勝だな」


「そうでもないぞ。生息するモンスターが特殊なのばかりで戦い辛い。あと数も多いしな」


 次なる目標は熱帯林エリア。

 数あるエリアの中で、最もモンスターが多い場所だ。


「一先ず普段通り、三日間は休養にする。各々体調を整えておくように」


「了解!」


「はーい!」


「うん」


「わかりました」


 他のエリアと違って、環境的にはとびぬけていない熱帯林エリア。

 今回は既存の魔道具だけで対処できる。

 この三日間は、俺もゆっくりできそうだ。

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