124.その光は全てを阻む

 麒麟との戦闘は、もはや戦いとは呼べない。

 一方的に攻撃を仕掛け、その悉くが跳ね返されてしまう。

 攻めているのは俺たちなのに、まったく優勢だと思えない。

 こんな戦いは初めてだ。


「キリエ下がって! 今度は私がやってみる!」


 ミアが前に出る。

 彼女の声を聞いて、キリエが一旦下がる。


「頼む!」


 ミアが麒麟に接近し、連続で攻撃を仕掛ける。

 キリエの速度で貫けなかった結界だ。

 ミアの剣速でも、おそらく斬り抜けない。

 彼女の狙いは速度ではなく、攻撃を続けることによるダメージの蓄積。

 剣を弾かれながらも斬り返し、何度も同じ場所を斬る。


「っ……こっちの腕が折れそうっ」


 こぼした声が聞こえてきた。

 当然だろう。

 彼女の一撃速い、だからこそ重い。

 それを何度も跳ね返され、その衝撃を腕が受けている。

 彼女も日々鍛えているが、ずっと耐えられるものじゃない。

 現に少しずつ、攻撃の速度が落ちている。


「もう良い! それ以上やると腕がもたない!」


「で、でも!」


「いいから戻ってくれ!」


「わ、わかった」


 攻撃を中断し、ミアが俺たちの元へ戻ってくる。

 一緒にキリエも合流し、再び全員で麒麟と向かい合う。

 依然、麒麟はその場から動かない。

 それどころか、攻撃を仕掛けてくることすらない。

 この程度は攻撃にもならないと、見下しているのだろうか。


「ミア、腕は?」


「まだ大丈夫……」


 と言いながら、腕は内出血で腫れてしまっていた。

 よほどの衝撃だったのだろう。

 痛いはずなのに、悔しそうな表情を浮かべている。


「ミレイナさん」


「はい」


 ミレイナに治療を任せ、俺は麒麟に目を向ける。


「なぁ、あの壁なんとかならないのか?」


「……眼は?」


「さっき使ったよ。だけど……」


 見えなかった。

 ユイの言う眼とは、俺の鑑定眼のことだ。

 俺はすでに、この眼で麒麟を観察している。

 しているのに、何も読み取れない。

 いや、厳密にいえば、結界については見えている。

 麒麟を覆っている結界は、魔法ではなく麒麟特有のスキルらしい。


 スキル名【護光ごこう】。

 光の結界で、あらゆる攻撃を反射する。

 その特性ゆえ、日の光は反射してしまうが、空気や無害な物は通す。


「攻撃は全部反射される。魔法もさっき試した通りだな」


「うん……曲げられる」


「ああ。対策としては、結界の許容限界まで攻撃を続けることだけど」


 ミアの連撃をくらってもヒビすら入らない。

 限界はあるとしても、果てしなく長い道のりになりそうだ。


「ともかく攻撃あるのみ。どういう理由か、攻撃してこないうちに結界を壊すぞ」


「おう! やるしかないってことだな!」


「頑張ろう」


 意気込むキリエとユイ。

 治療を終えたミアも合流し、全員で攻撃を再開する。

 あらゆる手を尽くす。

 魔法、道具、連携……今できる全てを試した。


 その結果――


 何一つ、麒麟には届かなかった。

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