123.麒麟

 白銀の角と純白の毛並み。

 シルエットは馬に近いが、近いだけで別の存在。

 否、別格の存在だと認識させられる。

 透き通る青い瞳に見つけられたら、まるで全てを見透かされているような気分になる。

 そして、口元から伸びる二本の髭が、威厳と風格を象徴していた。


「あれが麒麟……」


「ああ。気を抜くなよ皆……あれはモンスターというより神獣に近い」


 麒麟の伝説は、古くから伝わっている。

 遠い昔、世界から太陽が消え、明けない夜が続いた時代があった。

 原因はわからず、訳もわからず。

 暗闇の中で人々は怯え、作物は枯れ、動物たちは死に絶えた。

 人々は苦しみながら天に願った。

 

 どうか光を……闇を掃う強き光をください。

 どうか、どうか我々に救いを。


 その願いが天に届いたのか。

 真っ暗な世界に一筋の光が舞い降りた。

 それは生物だった。

 誰も見たことがない新しい生き物。

 人々は天が与えた使者だと崇め、麒麟と言う名で呼んだ。

 

 そして――


 麒麟が現れて数日後、太陽は再び世界を照らし始めた。

 偶然が、はたまた仕組まれたことなのか。

 麒麟の登場をきっかけに、世界は光を取り戻した。

 そんな人々を闇から救った存在と、俺たちは戦おうとしている。


「わかってると思うけど、目的は麒麟の髭だ。倒すことに拘らないように」


「りょーかい!」


 キリエが槍を構える。

 ミアも剣を抜き、一歩前に立つ。


「私たちはいつも通り前衛で良いんだよね?」


「ああ。俺たちが援護する」


「わかった!」


 いつも通りとミアは言った。

 確かに戦い方は普段と同じだが、おそらく同じ結果にはならない。

 聞いている麒麟の特性が真実なら、そもそも戦いにすらなるのか微妙だ。

 なぜなら――


「いくぜ!」


 麒麟は全ての攻撃を反射してしまうから。


「うっ――」


「キリエ!」


 高速で突撃したキリエが、次の瞬間には宙に浮いていた。

 攻撃は当たった。

 だが、当たった直後に反射され、キリエは吹き飛ばされてしまったんだ。

 キリエは空中で身をひねって着地する。


「大丈夫か?」


「何とか、痛っ……」


 キリエの口から血が流れる。

 彼女の持ち味である速度でも、麒麟の反射は抜けられないようだ。

 さらに強力な攻撃であるほど、反射されるダメージも大きい。

 速度で突っ込むのが得意なキリエにとって、この上なく戦いづらい相手。

 

 俺は爆発矢による攻撃も試したが、麒麟に直撃する前に爆発してしまい、ダメージは届かない。

 物理攻撃がダメなら魔法なら?

 ユイが光属性の魔法を繰り出す。


「ライトニングバレット」


 放たれる光の砲弾。

 これは反射でなく、ぐるりと屈折して外れてしまう。

 麒麟の周囲には透明な結界があり、それが攻撃を反射させてたり屈折させている。


 情報通り。

 いや、それ以上だと言える。

 何より驚くべきことは、この一連の攻撃の中で、麒麟は一歩も動いていない。

 じっと俺たちを見つめたまま動かない。

 俺たちの攻撃など、意にも返していない。


「格が違う……か」


 そう思わずにはいられない。

 ドラゴンと対峙した時よりも、今のほうがずっと強く感じる。

 俺たちは……勝てるのだろうかと。

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