122.聖なる者
水蒸気爆発の衝撃で、地面が大きくえぐれている。
転がった赤いコアが視界に入る。
そこへ流れ込もうとしている溶岩にも気づいて、慌ててキリエが取りに向う。
「あっぶないな~ やり直しになるとこだったよ」
そう言って戻って来たキリエの手には、サラマンドラから落ちたコアが握られている。
俺は彼女からコアを受け取り、なくさないようにカバンへ入れた。
「よし。これで残りは……」
「あと一つだね!」
ミアがガッツポーズをしながら俺に笑いかける。
俺は頷き、火山の上を見つめる。
イレーヌ鉱石、炎のコアは回収した。
残る最後の一つは、この先で待っている。
俺は皆に尋ねる。
「休憩はいりそうか?」
「私は大丈夫だよ」
「あたしも良いぜ? 早く終わらせて涼しーとこ戻りたいしな!」
「同じく。暑いのは嫌」
「皆さんが準備万端なら、わたしも行けます」
四人からの返答が出そろい、俺たちは歩き始める。
目指しているのは山頂。
そこに巣食うモンスターが、【聖なる者の髭】を持っている。
頂上までの道のりは険しい。
これまでよりも急勾配になる坂道、上がり続ける気温。
風が灰を巻き上げで、呼吸するときに口の中に入り込んできたり。
強力なモンスターも多い。
別のサラマンドラと遭遇もしたが、極力戦わないようにやり過ごした。
道中、ミレイナが俺に尋ねてくる。
「時間は大丈夫ですか?」
「ええ」
答えてから時計を見せる。
現在はサラマンドラを倒してから一時間くらい経過していた。
予定よりも遅れているが、想定の範囲内。
このまま順調にいけば、ギリギリ今日中には下山できる……はずだ。
「まぁ最後の相手に無事勝てたらだけど」
「そーいや強いって言ってたよな~ まっ! あたしらなら余裕でしょ」
「油断しちゃ駄目だよ」
「わかってるって」
ミアが警告するも、キリエはニコニコ笑いながら楽しそうに歩いていく。
やれやれと呆れるミアだが、彼女の表情にも余裕が見える。
これまで何度も修羅場を超えてきたからな。
とは言え、油断すれば負ける相手だし、情報通りなら結構苦戦する気がしてならない。
「無理に突っ込んだりはなしだからな? ちゃんと相手の能力を見定める。そのために道具だって渡してあるんだし」
「まっかせてよ! バッチリ活用するからさ」
「本当に頼むぞ」
俺の予想が正しければ、一番戦い辛いのはキリエだ。
いや、戦い辛いと言うより、長所を発揮できないのは……か。
そうしている間に、俺たちは山頂付近に到達する。
火山の山頂だ。
噴火口があり、穴を囲うように地面が覆っている。
そこに奴はいた。
隠れもせず、逃げもせず、堂々と立っていた。
おそらくこの世界で、もっとも神々しく見えるモンスターが、今目の前にいる。
俺たちも思わず立ち止まり、声を忘れる。
そのモンスターの名は……
天の使者――麒麟。
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