105.一発かませ

 砂漠エリアは広い。

 地平線すら見えるほど広大だ。

 あるのは砂の海。

 他には何もない。

 人は誰も通っていないし、木や水も見当たらない。


「暑い……指輪あっても全然暑いじゃん」


「だから出発前に言っただろ?」

 

 俺たちは砂漠を堂々と歩いていく。

 雲ひとつない青空が、これほど憎らしいと感じられるのも、砂漠ならではの感覚だろうか。

 直射日光をマントとフードで避けながら、砂の海を踏みしめる。

 雪山とは違う歩き難さには、中々慣れそうにない。


「なぁ……これどこ目指してるんだっけ?」


「遺跡の方向だよ。道中にワームがいれば討伐する。これもさっき話しただろ?」


「そうだった~」


 キリエはフワフワした発言を連発した。

 話を聞いていないのかと突っ込みたかったけど、理由はたぶんこの暑さにある。

 現在の気温は50℃をを超えている。

 

 人間の細胞は、50℃を超えると死んでしまう。

 短時間ならさらに高温でも耐えられるが、人間の脳は42℃が限界といわれているため、そこを超えないようにする必要がある。

 また、砂漠での限界は、水分がない状態で三十六時間。

 体重の十五パーセント以上の水分を失うと、人間は死に至る。

 すでに気温は限界ラインに達しているが、氷結晶から作成した指輪と、このマントのお陰で耐えられている状況だ。


「本当なら、夜に行動するのがベストなんだけどな……」


「でもワームが夜だと出てこないんだよね?」


 ミアがそう言い、俺は頷く。

 今回の討伐対象はサンドワーム。

 砂の中に潜んでいて、通りかかった生物を捕食する。

 日中は浅い場所にいるが、夜になると深くもぐってしまうため、探索は出来ない。

 砂漠での移動は夜にするのが安全だけど、今回はそういう理由で危険をおかしているわけだ。


「なぁ~ ワームってどこにもいないけどぉ?」


「それは砂の中に潜んでいるからな」


 サンドワームは捕食のときしか姿を現さない。

 捕食するときは、砂ごと飲み込んでしまうから、周りが蟻地獄のようになるのも特徴的だ。

 出てくるまではどこにいるかわからない。

 だからこうして、あえて襲われるのを待つしかない。


「じゃあさ! ユイの魔法でこのあたりをふっとばせば出てこないかな?」


「えっ、いやさすがにそれは……」


【いいんじゃねーの? オレはアリだと思うぜ】


「ベルゼもそう言ってるよ!」


 そう言ってるキリエは、歩くのに飽きた様子だ。

 他の三人の表情を確認してみると、全員が暑さに参っているようだった。

 装備を整えたとは言え、さすがに慣れない暑さはきついらしい。

 かくいう俺も、汗の量が増えてきていた。


 雪山のときと一緒で、長居は危険……か。


「そうだな。一発かますくらいならいいだろ」


「よっし! じゃあユイ、頼むわ!」


「わかった」


 ユイが杖を構える。

 魔法陣が砂漠に展開され、彼女が魔法を発動させる。


「ブロックバスター」


 大爆発が起こる。

 ブロックバスターは爆発系の中で最高威力を誇る魔法だ。

 舞い上がった砂が雨のように降り注ぐ。

 

 そして――

 

 サンドワームが地中から顔を出す。


「ほら出た!」


 一匹、二匹――

 どんどん増えていく。


「いや、多すぎるだろ!」


 出たのは一匹だけではない。

 爆発の範囲が広すぎて、近くにいた個体にも影響したらしい。

 気付けば殺風景な砂漠に、十を超えるワームが顔を出していた。


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