106.サンドワーム

 砂の中からウニョウニョと現れたサンドワーム。

 管状の口には鋭い歯が何重にも並び、捕食した生き物を噛み砕く。

 普段は砂の中に潜んでいるから、視覚的にはわからない。

 感知系のスキルか魔法を使用すれば、位置を先に把握して対応もできる。

 あとは今みたいに、衝撃や振動でおびき出すことも出来るんだけど……


「一、二、三……十一匹いますね」


 ミレイナが数えながらそう言った。

 俺は呆れて脱力する。


「さすがに引き過ぎ……というか、こんなに近くにいたのか」


 サンドワームは、砂の上を歩いている者を、砂ごと飲み込んで捕食する。

 捕食を始めるまでは見えないから、対応も後手に回りやすい。

 そう考えると、逆に幸運だったのかもしれない。

 これだけの数が潜んでいたのなら、襲われるのも時間の問題だっただろうし。

 それに――


「数は多いけど、チャンスなのは確かだな。これで一番の脅威は去った」


 サンドワーム戦で最も厄介なのは、砂の奥深くへ潜っていて姿が見えないことだ。

 見えない相手の不意打ちは、時に強者も足元をすくわれる。

 だが、姿が露出した今であれば、あとは殲滅するだけで良い。


「先にワームが地中に潜らないようにしよう! ユイ!」


「わかった」


【オレが手伝ってやるよ】


「うん」


 ユイが魔法を唱える。

 テンライという落雷を発生させる魔法。

 それをベルゼがコントロールして、一閃が枝分かれして落ちる。


「【カイライ!】」


 十一に分かれた落雷が、サンドワームへと直撃する。

 バリバリと電気を帯びながら焼け焦げる。

 分散したから威力は落ちているが、動きを鈍らせるには十分だろう。

 あとは――


「俺たちで狩るぞ!」


「おう!」


「うん!」


 俺は弓を構え、ミアとキリエもそれに続く。

 突撃しようとする二人を見て、ミレイナが慌てて手を組む。


「祈りで強化します!」


 ミレイナの祈りで、全員の肉体が強化される。

 彼女がパーティーに加わってから、全体的に能力アップを図ることが出来た。

 軽くなった身体で、ミアとキリエが突っ込む。


「ミア! どっちが多く倒せるか競争しようぜ!」


 そう言って先に攻撃を開始するキリエ。

 突進で一匹を貫き、ワームは砂の海に倒れこむ。


「あっ! ずるいよキリエ!」


 負けじとミアも交戦に入る。

 ワームの攻撃パターンは、基本的には噛み付きだけだ。

 露出している今なら簡単に回避できる速度。

 ミアはワームの噛み付きを躱しながら、流れるように斬撃を浴びせる。


「二人とも張り切ってるな~」


【お前さんも見てないで手伝ったらどうだ?】


「わかってるよ」


 ベルゼに言われてしまった俺は、彼女たちが戦いやすいように援護する。

 ユイの魔法で怯んだとは言え、時間をかければ回復して動けるようになる。

 個体によっては再び砂の中へ戻ろうとする。

 だから、爆発矢を連射して、砂の中へ潜るのを阻止する。


 そして、順調に狩りは進み、最後の一匹となった。


「もらった!」


「私が倒す!」


 互いに討伐数は五匹ずつ。

 最後の一匹に、二人が同じタイミングで攻撃をする。


「引き分けだな」


「みたいだね。あぁ~ 勝てると思ったのに」


 悔しそうにするミア。

 最後のワームは二人の攻撃を浴びて、力なく砂に倒れこんだ。


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