101.立ち往生

 数分後。

 吹雪はさらに強さを増し、寒さが身に刺さるほど厳しくなる。

 視界は遮られ、一歩先の足元さえハッキリとは見えない。

 雪もどんどん降り積もり、踏みしめるたびに沈み込んで、体力を削られていく。

 歩くのに精一杯で、会話も減ってきていた。

 先頭を歩く俺は、時々後ろを確認して、彼女たちに変化がないか注意する。


「ユイ、大丈夫か?」


「……うん」


 ユイは小さな声でそう言い頷いた。

 この中で体力が一番ないのはユイだろう。

 魔法使いである彼女は、走り回るということが少ないからな。

 ミレイナさんは意外と平気みたいだ。

 これまで色んなパーティーに加入して、修羅場を潜ってきているのかもしれない。


「もう半分は超えてるはずだ。頑張ろう」


 四人がこくりと頷く。

 俺はその様子を確認して、前を向き歩き出す。

 一歩一歩を確かめながら、少しでも早くこの区間を抜けようとする。

 しかし、俺たちの想いとは裏腹に、吹雪はもっと強くなった。


「っ……」


 風と雪が身体を押し戻すように襲い掛かる。

 歩くペースが半減し、うける疲労は倍増する。

 これでは満足に進めない。

 それより問題なのは、現在の時間だ。

 

 十七時の五分前。

 吹雪の所為で視界は真っ白だからわかりにくいが、おそらく太陽は西に沈みかけている。

 すなわち夜となっているはずだ。

 夜の雪山は、昼間に比べて気温が急激に下がる。

 そこへこの吹雪となれば、最低気温はマイナス50℃に達するだろう。

 防寒具とミレイナの加護が合わさっても、さすがに長くは身体がもたない。

 俺は後ろへ振り返り、彼女たちの状態を確認する。


「皆まだ歩けそうか?」


「うん、何とか」


「わたしもです」


 ユイは黙って小さく頷く。

 体力の少ない彼女が歩けると言っている。

 ギリギリだろうけど、これなら大丈夫かと思った。

 その直後に気付く。

 一人だけ返事をしていない。


「キリエ?」


 いつも元気で、俺が話しかけるとすぐに反応してくれる彼女が、うんともすんとも言わない。

 というより、フラフラとしていて足元ばかり見ている。


「おいキリエ、大丈夫か?」


「……っ、駄目……かも」


「なっ――おい!」


 そのまま倒れこんでしまうキリエ。

 俺は咄嗟に抱きかかえた。

 呼吸が荒く、顔色も悪い。

 もしかしてと思い、俺は額を合わせて熱を確認してみる。

 そしてすぐにわかった。


「凄い熱だ……」


 一体いつから?

 どの時点で熱が出ていたんだ?

 無理をして歩いていたのか。

 俺たちに心配をかけないように、黙って乗り切ろうと……


「もっと早く気付いていれば……」


 俺は後悔の言葉を口にした。

 だが、悔やんでいる場合ではないと悟る。

 吹雪は無慈悲にも続いていて、彼女の体力を削っている。

 このままでは、本当に命が危ない。

 とは言え、吹雪が続いている中でこれ以上進むのも危険だ。

 

「ユイ、魔法で穴を掘れるか?」


「……出来るけど」


「なら頼む。俺たちが入れる程度の大きさで良い」


 地面に穴を掘って、入り口を塞いで一時的な避難場所にする。

 細かいコントロールはベルゼに手伝ってもらおう。

 吹雪の中を進むより、安全な場所を確保して、吹雪が治まるのを待つほうが良いと判断した。

 キリエにとっても、きっとその方が良いだろう。


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