102.癒しの源泉

 ユイの魔法で穴を掘る。

 爆発系の魔法を放って、大きく地面を抉る。

 すると、偶然にも洞窟に繋がったらしく、通路の様になった穴を見つけた。

 俺たちはそこへ降りて暖をとることに


「ねぇシンク、キリエは大丈夫なの?」


「今のところはな」


 ミアの質問に答えながら、キリエの状態を再確認する。

 意識は曖昧で呼吸は荒い。

 熱も感覚だがかなりあるだろう。

 当然だけどあまり良い状態ではない。

 とは言え、今すぐどうにかなるほどではないだろう。


「苦しそう……」


 ユイがぼそりと言った。

 彼女の言う通り、キリエは苦しそうな表情を見せている。

 いつも元気な彼女だからこそ、そんな顔をされると心が痛い。


「ミレイナさん、祈りで回復させたりはできませんか?」


 ミレイナは首を横に振る。


「ごめんなさい。わたしの加護でも、病は治せません。身体を強化したりはできますが、今の状態では逆に熱を上げてしまうかもしれません」


「そうですか……」


 一応、解熱の薬は持っている。

 ただし、即効性があるわけではないので、すぐに回復はしない。

 あくまでも薬は、安静にしていることが前提だしな。


「とりあえず飲ませておこう」


 俺はキリエの口に薬を流し込む。

 本当は意識の曖昧な相手に飲ませるのは良くないけど、今の状況なら仕方がない。

 幸いなことに、飲み込む反射はあったようだし。


「ねぇシンク」


「どうした? ミア」


「ちょっと見てみたんだけど、この洞窟下に繋がってるよ」


 ミアが指をさしながらそう言った。

 目を凝らして暗い視界を見ると、確かに通路は斜め下へと続いている。

 ミアは続けて言う。


「こっちに進めば、山の下まで近づけるんじゃないかな?」


「う~ん……」


 ミアの提案は、悪い内容ではなかった。

 キリエの状態を考えると、少しでも早く下山できるなら、それにこしたことはない。

 ただしリスクもある。

 洞窟には特有の魔物が棲んでいることが多いし、そもそもどこへ繋がっているかわからない。

 ミアの言うように、山の麓に続いていればベストだけど、あくまで希望的観測でしかないんだ。

 現実のリスク。

 どちらを優先するべきか。

 悩む俺を三人がじっと見つめている。


「進もう。この吹雪がいつ止むかもわからない。少しでも先に進めるならそうすべきだ」


 俺の出した結論に、三人は黙って納得した様子だった。

 自分としては最善の選択をしたつもりだ。

 きっと正解なんてないし、考え続けなくてはならないだろう。

 危険を考慮しながら、俺たちは洞窟を進む。


「この場所じゃユイの魔法は使えない。俺もキリエを負ぶってるから、満足に戦えない」


「わかってるよ! 私が頑張るから任せて!」


 そう言ってミアが先頭を歩く。

 ランタンで周りを照らしながら、魔物に注意をはらっていく。

 三十分ほど進んだが、幸いなことに魔物とは遭遇してない。

 下り坂の道は徐々に急な角度になっていくが、まだ何とか歩けるレベルだ。


「これって本当に麓まで繋がってそうじゃないかな?」


「ああ」


 少しだけ期待が高まっている。

 予想でしかないけど、上は吹雪の区間を抜けているはずだ。


「シンク! これ見て!」


 急にミアが立ち止まり、大きな声で訴えかけて来た。

 指で示した場所は正面の地面。

 いや、地面があるべき場所と言うのが正しいだろう。


「落とし穴?」


「深いですね。下が見えませんよ」


 ユイとミレイナも確認する。

 目の前には大きな穴がぽっかりと空いていた。

 道はそこで途切れている。


「ここを降りろってことか……」


「みたいだね」

 

 俺たちは全員、空を移動するための靴を装備している。

 降りるだけなら問題はない。

 あとは、行った先で何が待ち受けているのか、ということだ。


「どうする?」


「行くしかないだろ。道はここしかないんだ」


「そうだね」


 腹を括り、空いている穴へと入る。

 ランタンで先を照らしつつ、慎重に降りていく。

 すると、徐々に気温が上昇していることに気付かされた。

 ユイが穴の奥を見て言う。


「明るい」


「本当だ!」


 穴の終わりにたどり着く。

 そこには、光る結晶がいくつも生えていて、綺麗にキラキラとした空間だった。

 何より目に留まったのは、中央にある湖の……立ち昇る湯気だ。


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