97.クリスタルドラゴン

 空を飛ぶドラゴンの翼は、氷の結晶のようにきらめいていた。

 鱗が光を反射している所為で、全体像が掴みにくい。

 ただ、以前に遭遇した黒竜とは明らかに違う個体だとはわかった。

 それどころか、文献で見たどのドラゴンとも一致しない。


「何なんだあれは!」


【ありゃークリスタルドラゴンだな】


「知ってるのか?」


【ああ。氷山とかによくいる奴だ】


「あんなのがよくいる? 冗談だろ?」


【そりゃー昔の話だからな。つーかそんなこと言ってる場合でもねーだろ】


 ベルゼの言う通りだ。

 種類は別として、ドラゴンが目の前にいる事実と向き合うべきだろう。

 

 クリスタルドラゴンは顎を開き、あきらかに何かを吐き出そうとしている。

 それに気付いたミレイナが、俺たちに言う。


「皆さん動かないでください!」


 ミレイナは片手で持っていた杖を両手で持ち直し、力いっぱい地面をつく。


「主よ――我が同胞を災厄から守りたまえ」


 クリスタルドラゴンがブレスを放つ。

 同時にミレイナが結界を展開。

 ブレスは結界によって防がれ、四方へ逸れる。

 逸れたブレスが地面に当たると、バキバキと音をたてて凍っていく。


「ミレイナさん、助かったよ」


「はい。でも……あまり長くはもちません」


 クリスタルドラゴンはブレスを吐き続けている。

 周囲にブレスが流れて氷のステージと化しつつあった。

 生身で触れれば一瞬で凍ってしまうだろう。

 ミレイナが抑えている間に、何とか策を考える必要がある。


【どうするよ。いっそオレたちでやるか?】


「いや、憑依はなしだ。さっきの数秒でもきつかったのに、次やったら動けなくなるだろ」


【別にいいじゃねーか。これで目的は終わりなんだしよぉ】


「駄目だ。帰り道だって危険がゼロじゃないんだぞ」


【ちっ、だったら作戦でも考えやがれ】


 言われなくてもそうしている。

 まず、このブレスを何とかしないと駄目だ。

 ミレイナの結界を出れば一瞬で氷付けにされる。


「ユイ! 炎魔法であいつのブレスを押し返せないか?」


「プロミネンスなら……でも、長くは無理」


「少しでもスペースが出来れば十分だ。ミアとキリエはその隙に両サイドから接近してくれ」


「わかった!」


「オーライ! んでも、ブレスの方向がこっち向いたらアウトじゃないか?」


「ああ。だから俺がブレスを止める」


「なるほど、オッケー!」


「私たちは信じて進めばいいんだね」


 方法を言う前に、二人は武器を構えて前を向く。

 俺も弓を構え、ユイが魔法陣を展開させる。

 そして――


「もう……限界です!」


 ミレイナの結界が砕け散る。


「プロミネンス」


 押し寄せる冷気のブレスを、ユイの魔法が相殺する。

 威力は五分と五分。

 ユイの魔法のお陰で、ブレスが当たらないスペースが出来た。

 そこへミアとキリエが左右に分かれて突っ込んでいく。


「頼んだよ!」


「行ってくるぜ!」


「ああ」


 俺は構えた弓で弦を引く。

 ユイの魔法が目の前に広がっていて、ドラゴンの姿は目視できない。

 真っ直ぐ撃っても炎の中で燃えてしまうだろう。

 だが、問題はない。


「死角から狙うのは、俺の十八番だ」


 俺は矢を上へ連射する。

 炎で視界が遮られていようと、ドラゴンがいた位置は覚えている。

 あとは矢の雨が降ってくるのを待つだけ。

 そして、降り注ぐ矢は――


「ドラゴン特効付だ」


 矢の雨が降り注ぐ。

 ダメージを受けたドラゴンは、顎を閉じてブレスを止めた。

 同時にユイも魔法の持続が限界となり、視界がクリアになる。


「もらったぜ!」


 そこへキリエの突進。

 ドラゴンの片翼を貫き、首の鱗の一部が剥がれる。

 続けてミアが接近し、首へと連続で剣を振るう。

 反撃しようと身をよじるドラゴン。

 だが、ミアの連続攻撃に押され、反撃する前に首を切断された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る