98.頂上へ

ドラゴンの首が落下する。

 その直後に身体は崩れ始め、首が地面に当たる頃には、身体のほとんどが消滅していた。

 首が消滅すると、そこからコアが顔を出す。

 ミアがコアを拾いあげると、横で何かが落ちた音が聞こえる。

 ふと目を向けると、そこには赤い結晶が雪に埋もれかけていた。


「コア……はこっちだし、何だろう?」


 ミアが赤い結晶を拾い、キリエと一緒に戻ってくる。

 俺は二人が戻ってくる途中で、ミアが持っている赤い結晶に気付いた。


「ねぇシンク、これって何かわかる?」


「コアじゃないのか?」


「たぶん違うと思う。コアはこっちでしょ?」


 ミアはもう一つ持っていた物を見せてくる。

 確かにこちらは見慣れたコアの形をしている。


「ちょっと見てみるか」


 鑑定眼スキルを発動。

 赤い結晶から情報を読みとる。


「なるほど」


「わかったの?」


「ああ。これはドラゴンの心臓だ。コアとは別で、ドラゴンの魔力炉の役割を担っていたらしい」


 自然に採取できる鉱石で、魔鉱石という物がある。

 魔鉱石には魔力を吸収し蓄積する力があって、様々な道具の核として重宝されている。

 ユイに渡した指輪も、根本は魔鉱石で作られている。

 ドラゴンの心臓は、魔鉱石の凄い版とでも言うべきだろうか。

 魔鉱石と違い蓄えるだけじゃなくて、魔力を生成する能力まで持っているらしいからな。


「予想外の大収穫だ」


 これがあれば、扱いきれずに眠っていた素材を活用することが出来る。

 俺は嬉しくなって、頬を緩ませながらドラゴンの心臓を眺めていた。

 すると、キリエが頭の後ろで両手を組みながら、ドラゴンがいた方を向いて言う。


「にしても、またドラゴンと会っちゃったな~ あたしらってドラゴンと縁ありすぎじゃない?」


「確かに……この短期間で二度目だもんね」


「少し慣れた」


 ミアとユイも同調した。

 ミレイナは苦い表情をしている。

 彼女にとってはあまり思い出したくないころだろう。


「さて、障害は取り除いたし、頂上を目指そうか」


「そうだなっ! うぅー寒」


 キリエが思い出したかのように身体を震わせる。

 戦っている最中は忘れているけど、寒さはより強くなっていた。


 しばらく頂上を目指して歩く。

 目の前に見えているようで、歩いてみると意外に遠い。

 斜面も急になってきている。

 逆に積もっている雪は減っていた。

 雲が一番多い層を抜けたから、頂上付近は雪も少ないようだ。


 そして遂に――


「到着!」


 俺たちは頂上にたどり着いた。

 キリエが両腕を広げて大きな声でそう言うと、他の皆も安堵してほっと胸を撫で下ろす。

 不意に後ろへ目を向けると、果てしなく広がる雲のじゅうたんがあった。


「凄いな……」


「うん。登るのに夢中で気付かなかったけど、あたしたち……こんな高い所にいるんだね」


 俺とミアは話しながら実感する。

 雲が自分よりも下にあって、空のほうが近くに見える。

 こんな体験は中々出来るものじゃない。


「冒険者の中でも、ここまで来られたパーティーは一握りでしょうね」


「だと思いますよ」


 この景色を見られたのも、ほんの僅かな人数だけだろう。

 限られた者しか見られない光景を、自分たちも見ているんだ。

 そう思うと、優越感を感じずにはいられない。

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