89.雪山エリア

 雪山エリアは、山岳エリアの北部を越えた先にある。

 以前にワイバーンの群れが通ってきたルート上だ。

 雪山エリアへの道のりは遠い。

 移動には馬車を使う予定だが、まずは山岳エリアを大きく迂回しなくてはならない。

 山岳エリアを直接越える方法もあるが、そっちのほうが逆に時間がかかるし、何より危険だ。


 俺たちは防寒対策をしっかり整え、アンディー道具屋を後にした。

 そこから北門へ向かい、業者から馬車を借りる。

 今回は運転も自分たちですることに決めて、馬車だけを借りることに。


「皆は後ろに乗ってくれ。運転は俺がするから」


「わたしも出来るので、途中で交代しましょう。到着まで時間がかかりますから」


「ありがとう、ミレイナさん」


 全員が馬車に乗ったことを確認して、俺は馬に鞭をうつ。

 馬は鳴き声をあげてから歩き出し、徐々に速度を上げていく。 

 雪山エリアまでは、馬車でも最短で二日はかかるらしい。

 本来ならば大きな荷物がいるのだけど、こういう時はマジックバッグが役に立つ。

 まぁ食料とかの衛生管理が必要なものとか、繊細な素材とかは入れないほうが良いのだけどね。


 街を出発して十五分。

 他愛のない会話が後ろから聞こえてくる。

 運転に集中していて黙っていたら、キリエが身を乗り出して尋ねてくる。


「ねぇねぇ! 馬車の運転って難しいのか?」

 

「えっ、あーどうだろう? 慣れるまでは大変かも。ただそこまで難しくはないと思うぞ」


「そうなの? だったらさ! あたしにも運転の仕方教えて!」


「別にいいけど」


「よぉーし! じゃあ今からそっち行く」


「今から?」


 俺が聞き返すと、キリエは荷台から俺の横へ移動しようとしていた。

 途中で動きをピタリと止め、中途半端な体勢のまま聞いてくる。


「駄目なのか?」


「この辺りは地面がガタガタだし、初心者には難しいんだよ。道中で良さそうな道があったら代わるから」


「えぇ~」


「それまでミレイナにコツでも教わっててくれ」


「そうする~」


 その後は、しばらく俺の運転の馬車を走らせた。

 途中で平らな道に出てからは、キリエを隣に乗せて運転した。

 何となく予想は出来ていたけど、キリエの運転は豪快すぎて、本人以外が酔いそうだったよ。

 休憩をこまめにとっていたこともあり、予定よりも少し遅れて進む。

 

 出発から二日と少し。

 俺たちを乗せた馬車は、雪山エリア付近まで近づいていた。


「うぅ……何だか寒くなってきたね」


 ミアが身体を震わせてそう言った。

 確かに、数分ほど前から急激に気温が下がっているような気がする。

 俺も綱をもつ手がかじかんできていた。

 理由は考えなくてもわかる。

 なぜなら、俺たちの目の前にはもう……真っ白な山々が見えているから。


「あれが雪山エリア……アルノス山脈だな」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る