84.ずっと忘れてました

 武器を失ったミア。

 結局このままでは戦えないので、俺の剣に再生能力を付与させ、魔道具へと変化させた。

 能力の付与だけなら、魔力消費だけで何とか出来る。

 キリエにも言ったけど、彼女の剣もスペアを用意しておくべきだったと、ここに来て後悔していた。


「とりあえず残り一匹だから。気を取り直していこう」


「おう」


「はい……頑張ります」


 ミアは申し訳なさそうに頭を下げている。

 キリエの返事も元気がない。

 いつも元気な二人がこうだと、パーティー全体が暗くなったようだな。


 二時間後――


 俺たちは馬車に乗り、グラニデの街へと帰還していた。

 ギルド会館へと向かう足が、いつもよりも遅い。

 と言うのも、先頭を歩くミアとキリエのテンションが未だに低いからだ。


「二人ともそろそろ元気出せよ。武器なら俺が作り直しておくから」


「ホントか! あぁ……でもまた溶かされるかも」


「ありがとう、シンク。迷惑かけてごめんなさい」


 ここまで落ち込んでいる二人は初めて見る。

 よほどトラウマになってしまったようだが、大丈夫だろうか。

 二人を見ながら、ユイに尋ねる。


「なぁユイ、二人って結構打たれ弱い?」


「うん。でも……これは重症」


「そうなのか」


 ユイが重症というのだから、かなり心へきているようだ。

 すると、ミレイナが俺の横に来て言う。


「戦士にとって武器は、魂を宿すもう一つの器……という話を以前に聞いたことがあります。二人にとっても、そうだったんでしょうね」


「武器は戦士の魂……か」


 俺にはあまりピンとこない。

 武器は消耗品だという認識があって、壊れた買い換えるか修理するのが普通だと思っているから。

 まぁでも、自分専用の武器なら思い入れも違うか。

 俺だってこの弓が壊れたら、それなりに落ち込むと思うし。


 ギルド会館に到着して、報酬を受け取る。

 その後はいつものように居酒屋へ行く。

 つもりだったが、二人は……


「疲れたから今日は帰りたい」


「私も帰ります」


「シンク、どうする?」


「いや……うん、もう解散でいいと思う」


「そうだね」


「そうしましょう」


 誰一人として止めることはなく、初めてクエスト終わりで家へ帰ることに。

 まだホームも出来ていないから、バラバラの方向へ帰っていく。

 俺とミレイナは途中まで同じだから、帰り道に話しながら歩いていく。


「二人とも大丈夫でしょうか」


「どうでしょうね。明日になったらケロっとしてるかも」


「そうだと良いですね」


「ええ。二人に元気がないと、こっちまで元気なくなりますから」


 元気を出してもらうために、俺は二人の装備を直しておこう。

 そんな話をしながら、分かれ道で一人になり、宿屋へと戻った。

 普段は先にシャワーを浴びるけど、今日は早く修理してしまおうと、机の上で素材を広げる。


「さてと……魔道具って修理できるのか?」


【出来るぞ。魔力だけ注げばな】


「だ、誰? ってベルゼか」


【おう。ベルゼ様だぞ】


 何だか久しぶりに声を聞いた気がする。


「なぁベルゼ、何で全然しゃべらなかったんだ?」


【は? そんなもん、お前がしゃべるなって言ってたからだろ? ふざけてんのか?】


「えっ、それは知らない人――」


 話しながら、頭に電流が走ったように思い出す。

 知らない人がいるときは、しゃべらないようにしてくれ。

 そう注意していた記憶と、ここ数日一緒にいた人のことを――


「あれ? でも会っている……そういえば、ミレイナにちゃんと紹介してない?」


【してないぞ。だから一応黙ってたんだろうが】


「あっ……」


【シンク、やっぱ忘れてたろ?】


「そうですね……ごめんなさい」


 というか、話すこと以前に、ベルゼが一緒にいたことも忘れていたよ。

 絶対に怒るから、口には出さずに黙っていよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る