83.武器がなくなりました

 ロックドレイクとの激戦が続く。

 溶解液に気をつけながら、前衛の二人は立ち回り、俺とユイが援護する。

 一匹との戦い方には慣れつつあったが、二匹以上はかなりきつい。

 ターゲットが後衛の俺たちに向くこともある。

 そういうときは、ミレイナの出番だ。


「あーくそ! 一匹そっちいったぞ!」


「ミレイナさん」


「主よ――我が同胞を眩き光で守りたまえ」


 祈りを捧げ、杖をカンと地面に当てる。

 すると、彼女を中心に光の結界が展開され、ロックドレイクの溶解液を防ぐ。


「ユイ!」


「テンライ」


 魔法陣から落雷が下る。

 続けて爆発矢を放ち、ロックドレイクを吹き飛ばす。

 俺はそのまま弓から剣へと武装を切り替え、露になった首を斬りおとす。

 こういう時、色んな武器を扱えるように特訓したことを思い出す。

 あの時間は無駄じゃなかったと、自分に言い聞かせる。


 俺たちがロックドレイクを一匹狩っている間に、ミアとキリエも戦いを終えていた。

 溶解液は怖いけど、吐き出すモーションはわかりやすいし、二人でも倒せる程度には慣れたようだ。

 とは言え、二人ともかなり疲労している。

 てくてくと近寄ってきながら、キリエが言う。


「あと一匹?」


 俺はこくりと頷く。

 そして、彼女の槍が半分溶けて短くなっていることに気付く。


「その槍、溶解液でやられたのか」


「そうなんだよ。ちょっとついただけで溶けちゃったんだ……」


「俺のを貸すよ。それじゃ戦えないだろ?」


「槍も持ってるのか?」


「一応ね。人並みには使えるから」


 俺はそう言いながら、マジックバックから槍を取り出す。

 鉄で出来た普通の槍だ。

 それをキリエに渡す。


「今度からスペアはあったほうがいいぞ」


「そうするよ。ありがとな」


 ここで俺は、ミアがそわそわしていることに気付く。

 ふと目を向けると、違和感を覚える。

 何かが足りないような……


「ミア」


「は、はい! 何でしょうか?」


 何で敬語なんだ?

 と、思ったとき、違和感の正体にも気付いた。


「剣はどうした?」


「あっ、えっと……」


 モジモジするミア。

 その反応を見て、俺は察する。


「もしかして、溶かされた?」


「……はい」


 ちょこっとだけ回想。

 俺たちが一匹と交戦している最中、ミアとキリエも戦闘を続行。

 岩の陰をたくみに使いながら、ロックドレイクを翻弄していた。


「キリエ! 今だよ!」


「まっかせろ!」


 一瞬の隙をついて、キリエの突進がドレイクの顎を突き上げる。

 ひっくり返りこそしなかったが、鱗のない部分が露出した。

 そこへミアが斬りこむ。


 と、ここまでは順調だったのだが……


 斬り込む直前に、ドレイクは溶解液を吐き出そうとしていたらしい。

 喉まで上がっていたから、斬った瞬間に血と一緒に飛沫が舞った。


「あっ――」


「ちょっ!」


 しぶきの一滴がキリエの槍について真っ二つになる。

 ミアの剣にも降りかかって、彼女は咄嗟に剣を離してしまった。

 そのまま剣は、地面に流れた溶解液交じりの血溜まりへ。


 ジュウ――


 さすがの再生能力も、溶け続けてしまえば間に合わなかった様子。


「ごめんなさい……触っちゃ駄目だって思ったら、手を離しちゃったんです」


「そ、そうか。まぁミアに怪我がなくてよかったよ」


 シュンとなって落ち込むミア。

 励ましつつ、俺もどうしようか考えていた。

 彼女の場合、普通の剣じゃ駄目だからな……

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