82.意外と苦戦

 ロックドレイクの特性。

 その一つが、高粘度の溶解液を体内で精製していることだ。

 石や鉄でも簡単に溶かしてしまえるほど強力で、武器を扱う者にとっては天敵と言える。


「っ……」


「キリエ!」


 その溶解液を受けてしまったキリエは、左腕を押さえて痛みに耐えている。

 溶解液を吐き出したロックドレイクは、そのままキリエに向かっていく。

 俺は矢を連射して、彼女が下がるだけの時間を稼ぐ。


「動けるか?」


「だい……じょうぶ!」


 キリエは力を振り絞って、俺たちのところへ駆け戻る。

 すぐにミレイナが治療を開始。


「いっつ……」


「治療します! 主よ――か弱き我らに癒しの加護を与えたまえ」


 ミレイナの祈りによってキリエの傷が癒えていく。

 スーツを着ていたことが幸いして、皮膚と筋肉の表面が溶けただけだった。

 直接かかっていれば、骨まで見えていただろう。

 

 ミレイナが治療している間に、俺とミアとユイでロックドレイクをしとめる。


「俺が動きを止めてるから、ミアは側面に回りこんでくれ!」


「了解!」


「ユイは雷の魔法を使ってくれ。あいつは電撃に弱い」


「わかった」


 ミアが走り出し、ユイが杖を構える。


「テンライ」


 上空に展開された魔法陣から、一筋の雷が落ちる。

 ロックドレイクが動きを止める。

 そこへすかさず爆発矢を打ち込み、天地をひっくり返させる。


「今だミア! 首を狙え!」


 側面に回りこんでいたミアが、飛び上がってロックドレイクに斬りかかる。

 地面側の表面には、硬い鱗で覆われていない。

 仰向けになっている状態なら、簡単に斬りおとせる。


「はっ!」


 一刀両断。

 ロックドレイクの首が転がり、血しぶきが舞う。

 そして、転がった首から牙を採取する。


「血には触れないようにしろ。それも毒だから」


「えっ、そうなの? じゃ、じゃあ口は? さっき吐いてた液体が残ってたり……」


「それは大丈夫だろうけど、怖いなら俺がやろうか?」


「お、お願いします」


 ミアに代わってロックドレイクの牙を剥ぎ取る。

 慎重に外側を触れながらやれば、溶解液が口に残っていたとしても触れなくて済む。


「これで二つだな」


 採取を終えて、俺とミアはキリエと所へ走っていく。

 ユイもすでに傍にいて、ミレイナの治療は終わっている様子だった。

 俺が心配して声をかける。


「大丈夫か?」


「おう、何とか平気。めっちゃ痛かったけどな」


 皮膚は綺麗に治っている。

 負傷が骨まで至っていなかったことも関係しているだろうが、ミレイナの治癒の力が強いこともあるだろう。

 二つの意味で幸運だったと言えるな。


「スーツやぶけちゃった……なぁシンク、これって直せるのか?」


「魔道具の修復か。やったことないけど、たぶん出来ると思うぞ」


「本当か? ならいいけど、あたしこれないと何にも出来ないからさ」


「いや、今はそんなことないだろ」


 キリエは珍しく落ち込んでいた。

 スーツが破れたことがそれほどショックだったのだろうか。

 愛着を持っていてくれたのなら、それはそれで嬉しい。


 キリエが歩けるようになったことを確認して、俺たちは次の獲物を探す。

 一匹から採取できる牙は二つだけだ。

 大きい牙以外は、納品としては不合格らしいからな。

 つまり……


「残り最低でも四体か……スーツが持つかな」


「私の剣って溶かされたら回復するのかな? ねぇシンク」


「さぁどうだろうな。連続で溶け続けたら、修復が間に合わないかもしれない」


「うっ……気をつけないと」


 前衛で戦う二人は、自分の装備の心配をしているようだ。

 そして、この後の戦いでも、意外な苦戦は続く。

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