74.感謝を伝え合う
ギルド会館で話がついた後、ガランは王国の兵隊に連行されていった。
俺たちはその様子を見守っていたが、最後までガランは俺と目を合わせることはなかった。
おそらく、これから一生会うことはないだろう。
昔の俺ならともかく、今は何とも思わない。
ティアラたちも荷物をまとめて街を出て行った。
冒険者の資格を失った彼女たちは、これからどうしていくのだろう。
普通の生活に戻れるのだろうか。
心配はしていないけど、少しだけ行く末に興味があった。
もしかすると彼女たちとは、またどこかで会う機会があるかもしれないな。
時間はあっという間に経過して、いつの間にか夕方になる。
俺たちはというと、なじみの居酒屋にいた。
「改めてよろしく。ミレイナさん」
「こちらこそよろしくお願いします。皆さんのお役に立てるように精一杯頑張らせていただきます」
「かったいな~ もっと気楽に行こうよ~」
「キリエもう酔ってるの? いつもより早くない?」
「だってぇ~ 久しぶりなんだもーん」
キリエは酔って顔を赤くしながら、楽しそうにもう一杯を飲み干す。
やれやれと言いながら呆れているミアだが、彼女も普段よりペースが早い。
ユイは普段と変わらない。
元もと酔っても表情には出ないし、どっちかわからないな。
「ミレイナさん、お酒は飲まないんですか?」
「はい。わたしアルコールが苦手なので。シンクさんは?」
「俺は人並みに飲みますよ。あんまり強いほうじゃないので、飲み過ぎないようにしてます」
「そうなんですね。しっかり自制されているのは良いことです」
俺とミレイナが会話を続けている間も、三人はどんどん注文して平らげていく。
気付けばテーブルの上が空いたジョッキで埋まりそうになっていて、キリエにいたっては突っ伏して眠ってしまっている。
「皆……はめ外しすぎじゃないか」
「ふふっ、きっと安心したからだと思いますよ」
「まぁ、そうかもしれないですね」
色々なことが起こって、悩んだり苦しんだりしてきた。
俺もたくさん考えたし、彼女たちも一緒に考えてくれていた。
見た目には出さないだけで、たくさん苦労をかけていたんだろうと思う。
「今日くらいはいいか」
そう思ってしばらく彼女たちを見守った。
二時間くらいして、店の閉店時間も近づいた所で、キリエが目を覚ました。
歩けるほどには酔いも覚めたようなので、そのまま帰宅することに。
「うぅ~ 頭痛い」
「ちゃんと帰れそうか?」
「たぶん……駄目だったらミアに負ぶってもらう」
「私も今は無理だから。ユイに頼んでよ」
「引きずってもいいなら」
大丈夫ではなさそうだけど、帰ってもらうしかないな。
「気をつけて帰れよ」
三人は手を振り、俺に背を向けて去っていく。
俺とミレイナは同じ方向に帰るため、しばらくは一緒に歩いていた。
道中、彼女は言う。
「今日はありがとうございました。この恩は必ず返します」
「いやいや、救われたのはこっちも一緒ですから。それに終わったみたいな言い方はやめましょう。これから始まるんです」
「そうですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ミレイナは笑顔でそう言い、丁寧に頭を下げた。
感謝を伝え合い、次の約束をして別れる。
また明日、といえることが、当たり前になって続くようにと願っている。
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