75.クエスト終わりに

 ゴブリン軍団との戦いから二週間。

 街はこれまで通りの賑わいを取り戻し、冒険者たちもクエストに励んでいた。

 長く休んでいた俺たちも、二日前から活動を再開。

 今日も討伐クエストを済ませて、ギルド会館に戻ってきていた。


「こちらが報酬になります」


 俺たちは受付でクエスト完了報告を済ませ、報酬を受け取った。

 この後はいつもの居酒屋に向かう。

 最近は席も固定になっていて、店に入ると必ず空けていてくれる。

 全員が席について注文し終わった所で、キリエが改まった感じで話し出す。

 

「あのさ、ちょっと提案があるんだけど聞いてくれる?」


「提案? 俺にか?」


「シンクにっていうか、パーティーの皆になんだけど」


 そう言いながらキリエが他の三人に目を向ける。

 ミアとユイの反応から、彼女たちはすでに知っていることが伝わってくる。

 ミレイナはキョトンとしているから、おそらく知らないだろう。


「いいよ。何?」


「あたしたち専用のホームがほしい!」


「ホーム?」


「そう! パーティーが一緒に暮らせる家がほしいんだよ」


 唐突なキリエの発言に、俺とミレイナは戸惑う。

 これまでそんな話は一切出てこなかったから、余計に驚かされる。

 だから俺は、どうしてそういう発想に至ったのかを尋ねてみた。

 すると、キリエがこう答える。


「この間にさ。ギルド会館に向かう途中で、隣を歩いてたパーティーが話してたんだよ。もう少しお金がたまったら、新しいホームが買いたいなーって」


「ホームか……二人も聞いてたの?」


「うん。私も気になって調べたら、上級パーティーの一部は、自分たち専用の家を持ってるところが多いんだって」


 ミアが説明すると、ユイがうんうんと頷いている。

 それについては俺も知っていた。

 パーティーホームとか呼ばれていて、メンバーだけが自由に使える家らしい。

 上級パーティーでも金銭的に余裕がある一部だけが所有しているとか。


「ほら、あたしたちってお金は結構貯まったでしょ? だから家くらい買ってもいいんじゃないかなーって」


 キリエは軽い感じにそう言った。

 家なんて大きな買い物は、一生に一度しかないことが多い。

 それをあっさりと言ってしまう辺り、キリエは大物になれると思う。

 ミアとユイにも確認してみたが、二人ともホームがほしいという意見は同じだった。


「なぁシンク、どうかな?」


「うーん、俺は別にいいけど、ミレイナさんは?」


「私も皆さんがよければ」


「じゃあ決定で良い?」


 キリエが食い気味で聞いてきた。

 ミレイナも良いと言うなら、特に止める理由もない。

 俺は頷いて肯定する。


「やったー! これでシンクを監視できるぞ!」


「ん? 監視?」


 思いもよらぬ言葉が聞こえて、俺は微妙な表情をする。

 キリエが元気よく答える。


「そう! シンクって甘々だからさ~ また悪い奴らに引っかかったりしないか心配なんだよね」


「この間のことで学習したからね! これからは私たちでシンクを守るんだ」


「一緒なら安心」


「えぇ……」


 ホームがほしいという提案には、そういう考えも含まれてたのか。

 心配してくれているのは嬉しいけど、ちょっと複雑な気分だ。

 自分が甘いのは……まぁ事実なんだけどさ。


「ふふっ、シンクさん大人気ですね」


「いや、笑うところじゃないですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る