56.観光

 街を歩いていく、風景に見惚れて歩く速さが落ちていく。

 建物ではなく、街灯や道に至るまで、洗礼された構造をしていると思う。

 色合いの美しさもそうだが、形もスッキリとしていてわかりやすい。

 なるほどと納得する。

 これなら世界一美しい街と呼ばれても不思議じゃないな。

 初めは興味なさげだったキリエも、今では食い入るように風景を眺めている。

 見る者を圧倒し、釘付けにする魅力。

 そう言うものが、この街には満ちているのかもしれない。

 

 街を歩くこと十五分。

 道行く人に尋ねながら、ギルド会館に到着する。

 俺たちが知っているギルド会館は、木造建築で横に広い建物だ。

 大抵はどこも同じ形だと聞いていたけど……


「全然違うじゃん! 何これ」


 ギルド会館も別物だった。

 当然のように真っ白で、教会みたいな形をしている。


「本当にここなの?」


「看板はある」


 ユイが指を指し示す。

 確かに看板があって、ギルド会館と書かれている。

 間違ってはいないようだ。


「入ってみるか」


 恐る恐る扉を開ける。

 すると――


「あれ?」


「中は普通だね」


 外見は別物だったけど、中は俺たちの知っているギルド会館の風景だった。

 逆に予想外で驚いてしまう。

 入り口で立っていると、受付のお姉さんと目が合って、ニッコリと微笑んでくる。


「と、とりあえず完了報告を済ませようか」


 三人が頷き俺の後に続く。

 受付でサインを貰った紙をみせ、しばらく待って報酬を受け取る。

 当たり前だけど流れは同じで、周りの光景も一緒だから落ち着く。

 これにてクエストは完了した。

 

「じゃあ観光するか?」


「うん!」


 ミアが元気に返事をした。

 ギルド会館を出た後は、思うがままに歩き回って、色々な場所を巡った。

 ミアが行きたい場所についていく形だったけど、どれも新鮮な光景ばかりで楽しい。

 いつしか時間が過ぎて、西の空に太陽が沈もうとしていた。


「もうこんな時間か。宿探さないと」


「あっ! それなら良い所知ってるよ!」


「そう? だったら案内してもらおうか」


「任せて!」


 自信ありという表情のミア。

 彼女の案内で向かったのは、「ロイヤルガーデン」と書かれた建物だった。

 観光客が好んで宿泊する場所らしく、外も中も花がいっぱいで綺麗だ。

 

「めっちゃ混んでるけど」


「人気だからね。空いてるかな~」

 

 ミアがフロントに尋ねると、奇跡的に一部屋だけ空いているらしい。

 ただしベッドは大きいのが二つしかないとのこと。


「じゃあそこで! 皆もいいよね?」


「おう」


「うん」


「シンクは?」


「いや、まぁ……皆がいいなら俺は良いよ」


 ちょっとだけ頭に煩悩が浮かんだけど、なかったことにしよう。

 三人ともまったく気にしていない様子だし、俺が変に緊張するのも恥ずかしいしな。

 鍵を貰い、部屋へと移動する。

 

「広い! 綺麗!」


 ミアが興奮気味に言った。

 今日のミアはキリエよりもテンションが高いな。


「景色も良いな。さすが五階」


「夜の街が見えるね」


 キリエとユイが窓から外を眺めている。

 俺もちらっと見たが、確かに絶景だった。

 そんな感じで特に何もなく、夜は緩やかに過ぎていく。

 ちなみにベッドの片方は、俺が一人で使った。

 申し訳ない気持ちはあるけど、他の問題に比べたら大したことはない。

 一応これでも、俺は男だからな。

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