55.バエルトロ
盗賊を退けた俺たちは、休憩を済ませてから再出発する。
夕方に近づく頃には、荒野を抜けて穏やかな田園風景が見えるようになっていた。
この辺りは小さな村がいくつかあり、農作物を育てている。
俺たちが拠点としているグラニデの街も、ここから届けられた食べ物も少なくないとか。
しばらく進んでから、村の一つにお邪魔する。
馬車で寝泊りする予定だったが、村の人が快く空いている部屋をかしてくれた。
【お前らが寝てる間は、オレが見張っててやるよ】
「いいのか?」
【良いも何も、オレに睡眠は必要ねーからな。どうせ暇してるだけだ】
「だったらよろしく頼むよ」
【おう、任せとけ~】
若干やる気のない返事だが、彼から言い出したことだし大丈夫だろう。
そうして、俺たちは一つ屋根の下で横になる。
四つの布団を並べ、右からミア、キリエ、ユイの順番。
俺は少し離れた場所に布団を移動させ、ベルゼのランタンと横に置いて布団へ入る。
「なぁミア~ 到着って明後日だよな~」
「順調にいけばそうだよ」
「向こうついたらどーすんの? すぐに戻るのか?」
「えぇー、私はせっかくだし観光したいな~ ねぇシンクは?」
「俺はミアがしたいっていうなら、観光しても良いと思うぞ」
クエスト自体は到着した時点で完了になる。
報告は戻ってしても良いし、向こうにギルド会館があればそこで済ますことも出来る。
この後の予定は特に入っていないから、観光も悪くはないかな。
俺も初めていく街だから、どんな場所なのか興味もあるし。
「一日くらいゆっくりしていくか」
「やったー! 一日あればいっぱい観光できるよぉ~」
「声でかっ! 一応夜だからな?」
「あっ、ご、ごめん」
キリエに注意されているミア。
いつもとは立場が逆になっていて新鮮だ。
そうして夜を過ごし、翌日の早朝には移動を再開する。
盗賊が多く確認されている区間は過ぎ、モンスターの出現率も少ない。
残りの時間は、最初と同じで平和だった。
俺たちを乗せた馬車は、何の障害にも阻まれることなく進んでいく。
そして――
目の前にバエルトロの街が見えてくる。
街の四方は高い壁に覆われていて、すべてを見ることは出来ない。
それでも背の高い建物がいくつか顔を出している。
囲っている壁も、見えている建物も真っ白で、見ていて眩しいとさえ思える。
これがバエルトロの特徴。
純白の街と呼ばれていたこともあったらしい。
中へ入ると、それはより鮮明になる。
建物のほとんどが白を基調としていて、街全体が真っ白なキャンバスのよう。
そこを歩く人々も、おしゃれをしていて華やかだ。
観光客で賑わう商店や、街頭での催し物もしている。
俺たちの知っている街とは大違いで、最初は圧巻とさせられた。
「ここが……世界一美しい街」
ミアは目を輝かせて街の風景を眺めている。
念願が叶って、バエルトロに来られた彼女はとても幸せそうだ。
その後は、馬車を指定の場所まで送り届けた。
依頼主に完了のサインだけ貰って別れる。
話によれば、この街にもギルド会館はあるらしい。
俺たちはクエスト完了を報告するため、ギルド会館を探しに歩き始めた。
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