54.脅威との遭遇

 俺たちを乗せた馬車は、森林エリアを抜け荒廃した土地を進む。

 枯れた木が倒れていたり、岩がゴロゴロと転がっている。

 地面は枯れてひび割れていたりもする。

 俺たちが通っている道だけが、比較的安全に通行できるルートらしい。


「この辺りはモンスターこそ少ないですが、盗賊に遭遇しやすいと聞きます。もしものときはお願いいたします」


「任せてください!」


「盗賊なんてぱぱっと退治しちゃうぜ!」


「はっはっは、頼もしい限りです」


 前の馬車からそんな会話が聞こえてきた。

 二人はあー言っているけど、俺はちょっぴり不安だ。

 盗賊はモンスターではなく生身の人間。

 彼女たちは人間と戦ってきた経験が少ないと思う。

 俺だってあまり得意じゃないし、悪人でも人を傷つけることに抵抗がないとは言えない。


「遭遇しないことを願おう」


 そう思っている。

 ただ、こういう時は大抵思い通りにはいかないものだ。

 ある程度の覚悟はしておこう。


 馬車は進み、荒野の中央で停車する。

 定期的に休憩をとらないと、馬の体力が続かないそうだ。

 荒野の真ん中で見通しも良いし、何かあればすぐに気付ける場所だ。

 俺たちは一箇所に集まって話す。


「ここまで順調だな」


「だよな。順調すぎて退屈だけど」


「平和なのは良いことだよ」


 キリエはベルゼと同じことを言っているし、それに対するミアの回答も俺と被っている。

 何と言うか、少し恥ずかしいな。

 すると、ベルゼが小さな声で言う。


【そんなこと言ってるからだぞ】


「ベルゼ?」


【もう囲まれてるな】


 ベルゼの一言で、全員に緊張感が走る。

 俺たちが周囲を見回すが、荒野に俺たち以外の人影はない。

 ないのだが、見られている気配は感じられる。


【幻術で姿をかくしてやがるな】


「皆さん馬車に乗ってください! 賊が近づいてきています!」


 俺は咄嗟に叫んで周囲に危険を伝えた。

 依頼主たちは一斉に馬車へ身を隠す。

 すると、どこからか男の声が聞こえてくる。


「っち、ばれちまったかよ」


 声が聞こえた後で、一人二人と姿が見え始める。

 ドンドン増えて、左右合わせて二十人弱いるようだ。

 ベルゼの言う通り、すでに囲まれてしまっている。


「ミアは右、キリエは左を頼む!」


「了解!」


「おっけー!」


 ミアとキリエが武器を構える。

 俺とユイは馬車の上に乗り、両方を見下ろせる位置に来る。

 狙いは馬車の積荷だろうし、馬車を攻撃はしてこないだろう。

 ただし、数では圧倒的に不利な状況。

 ミアとキリエに敵が迫っていく。 


【おい嬢ちゃん! お前雷の魔法は使えるか?】


「使えるけど?」


【だったらここに落としな! オレが上手く全方位に当ててやるよ】


「そんなことできるのか?」


【出来るぜ。なんせオレは魔王だったんだからな】


「シンク、どうする?」

 

 ユイがオレに了承を求めてくる。

 確かにこの状況をひっくり返すなら、彼女の魔法が一番早い。


「言われた通りにやってくれ」


「わかった」


「二人とも前に出るな!」


 俺の指示を聞いて、二人は一歩下がる。

 ユイは杖を頭上へかざし、魔法陣を展開させる。


「テンライ」


 魔法陣から落ちる一本の雷。

 俺たちのいる場所へ向かってくる。


【からのーカイライだぜ】


 雷が枝分かれして、左右へ降り注がれる。


「うおっ!」


「なんだこりゃあ!」


 盗賊たちに落ちた雷は、地面を抉っていた。

 直撃こそしていないが、何人かは衝撃で倒れている。

 これなら――


「今だ二人とも! 拘束するんだ!」


 ミアとキリエが動く。

 武器を優先して破壊し、戦闘継続困難なダメージを与えていく。

 俺はというと、ベルゼ戦でも使った氷の矢を放ち、盗賊たちを次々にかためていく。

 

 襲撃からわずか三分。

 盗賊は全員拘束された。


【どうだ? 役に立っただろ?】


「……うん。認める」


【かっかっかっ! 素直じゃねーか】


 戦えないと聞いて、ガッカリしたのは取り消そう。

 俺が思っていた以上に、ベルゼの加入は大きかったかもしれない

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