57.同じスキルを持つ者

 一夜を明かして翌日の朝。

 いつもより身体が重くて、俺は目を覚ました。

 両腕がしびれて動かない。

 腰辺りにも何かが撒きついているような感じがする。


「何だこ……ぅえ!」


 理由はすぐにわかった。

 隣のベッドで眠っていたはずの三人が、なぜか俺の身体にまとわりついていたんだ。


「ちょっ、ちょっと君たち何してるの!?」


「ぅう~ん……おはよう」


「おはよう。じゃなくてね!」


 ミア、キリエ、ユイの順番に目を覚ましていく。

 目を擦りながら、寝ぼけ眼で俺を見る。


「あれぇ? なんでシンクが同じベッドに……あぁ」


「そういやそーだっけ」


「……うん」


 三人は納得したように頷く。

 俺だけがついていけずに慌てている。


「大丈夫、大丈夫」


「何が? 何が大丈夫なの?」


【朝からうるせー奴らだな】


 ベルゼの呆れた声が聞こえ、新しい一日が始める。

 その後は淡々と着替えをして、宿屋を出た。

 理由を尋ねてみたけど、結局三人とも教えてくれなくて、もやもやしたまま気持ちが続く。


 歩きながらミアが尋ねてくる。


「この後はどうするの?」


「観光は十分出来たか?」


「うん。私はもう満足だよ!」


「そうか。だったら一箇所だけ付き合ってもらってもいいかな? 行きたい場所があるんだ」


「私は良いよ。二人も良いよね?」


「もちろんだぜ」


「大丈夫」


 三人の了承を得た所で、俺はとある場所に向かう。

 泊まっていた建物を出発して十五分。

 早朝だというのに街は賑やかで、昼間と変わらない喧騒が広がっている。

 そんな中向かったのは、アデュールとおしゃれな文字で書かれた店だった。


「シンク、ここは?」


「雑貨屋だよ。色々な物が売ってるお店」


 昨日街をぶらぶらと観光していたとき、ふと目に付いた店だ。

 他の観光客に聞いたら、街で一番大きな雑貨屋がここらしい。

 様々な道具から素材まで、多種多様な商品を扱っていて、お土産屋としても繁盛しているとか。


「せっかくだし、皆もお土産でも買ったらどう?」


「おっ、いいなそれ!」


「旅の思い出になりそう。たくさん買おうかな」


「買いすぎて帰ってから困らない程度にな」


 そんなこんなで一緒に店の中へ入る。

 内装も予想以上に綺麗で、何より驚かされたのは棚の数だ。

 アンディーには悪いけど、比べ物にならないくらい大量の商品が並べられている。

 まさに圧巻、見ているだけで目が疲れそうだ。

 入店後は、三十分後に集合する約束をしてそれぞれに分かれた。

 俺は素材アイテムが並んでいるコーナーへ足を運び、魔道具作りに使えそうな物がないか探す。


「見たことない素材も多いな。どれがいいんだろ」


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


 悩んでいると、一人の男性店員が声をかけてきた。


「あっ、はい。何をってわけじゃないんですが、珍しい素材はないかなと」


「なるほど、希少価値の高い素材でしたらあちらに揃えてありますよ」


「本当ですか? えっと、どの辺りです?」


「ご案内します」


「助かります」


 俺は店員につれられて場所を移動する。

 案内された棚には、確かに珍しい物ばかりが置かれていた。

 俺でも知っている希少な鉱物から、まったくわからない植物まで。


「すごい品揃えですね……この店を作った人は、よほどの商才を持っていたんでしょう」


「いやはや、そう言っていただけると嬉しいですね」


 なぜか男性店員が照れている。

 よくよく胸を見ると、オーナー店長リドルと書かれた名札をつけていた。


「ああ、店長さんだったんですね」


「はい。この店をゼロから立ち上げたのも私です。ここまで大きくするには苦労しましたよ」


「はははっ、そうでしょうね」


「ええ。まぁ私には商才もあったようですが、それ以上に優れた力を授かってたお陰です」


「優れた力?」


 俺がキョトンとして言うと、彼の瞳が黄色く光りだす。


「この眼ですよ。私には鑑定眼スキルが宿っています。それも何と限界レベルの力です」


「えっ、店長さんもですか?」


「ん、どういう……まさか貴方も?」


「はい。同じく限界レベルの鑑定眼を持っています」


 俺がそう言うと、店長リドルは目を輝かせる。

 同属を見つけたことでテンションが上がったのか。

 かくいう俺も、自分と同じレベルのスキルを持つ人とは初めて会う。


「もしやあなたも商人ですか?」


「いえ、一応これでも冒険者です」


「冒険者? それだけの力を持っているのに? 勿体ないですね」


「あはははは……」


「というより、大変ではないですか? その……鑑定眼は冒険者の間では不遇と聞いておりますが」


「ええ、まぁそうですね。でも意外と便利なんですよ? ダンジョンの仕掛けがわかったり、モンスターの弱点を見抜けたりするので」


「えっ……はい? ダンジョンの仕掛け? モンスターの弱点? そんなものは鑑定眼スキルでは見えませんよ?」


「えっ……え?」


 俺は思わず固まってしまう。

 思いがけない所で、互いの話がかみ合わなかった。

 

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