50.シンクの休日

 ダンジョンを攻略した翌日。

 カーテンの隙間から差し込む朝日で、俺は目を覚ました。

 瞼を擦りながら時計を見ると、すでに午前八時を過ぎている。

 普段ならギルド会館に集合している時間だが、今日は休みなので大丈夫。


「うう~ん、はぁ……さすがに疲れてるな」


 大きな背伸びをして、身体のダルさが残っていることを確認する。

 昨日の激戦は、黒竜との戦いよりもハードだった。

 ポーションで治療を受けて傷は治っているけど、かなり出血したし、まだ血が足りていない感じもするな。

 そして、俺と激しいバトルをした相手が――


【おう! やっと起きやがったか】


「ああ、おはよう」


 しゃべる炎のベルゼビュート。

 彼こそダンジョンの作成者にして、大昔に魔王と呼ばれていた存在らしい。

 今は魂だけになっていて、俺のランタンの中にいる。

 色々とあって一緒に行動するようになったのだが、昨日の今日でよく馴染めるものだ。


【今日はどーすんだ? どっか行くのか?】


「道具屋へ買い物に行こうかと思ってるよ」


【ほーん、だったらオレも連れてってくれよ】


「別にいいけど、静かにしていてくれよ?」

 

 炎がしゃべっているなんてわかったら、変に注目を集めてしまう。

 黒竜撃退の後から、ようやく落ち着いて街で生活できるようになったんだ。

 また目立って疲れるのはごめんだ。


【へいへーい】


 ベルゼの返事は軽かった。

 ちょっと信用できないけど、人と会わなければ問題ないか。

 そう思ってベルゼのランタンを腰につけ、着替えも済ませて宿屋を出た。 

 向かったのはアンディー道具店だ。

 カランカランとベルを鳴らして扉を開けると、店長のアンディーが立っていた。


「おぉ、シンクじゃねーか。久しぶりだな」


「こんにちは。久しぶりってほどでもないですよ」


「お前さんの場合、二日も空けば異常なんだよ。ん? なんだそのランタン、変な色の炎だな」


【いかした炎だと言ってほしいねぇ!】


「んあ? 炎がしゃべった?」


「はぁ……やっぱりこうなったか。静かにしていてって言わなかった?」


【あ、わりぃな……つい】


 俺は大きくため息をこぼし、あらましをアンディーに語った。

 アンディーは終始驚きながら聞いていたが、最後には納得していたようだ。


「また随分とけったいなもん手に入れたな」


「本当ですよね」


【おいおいおい! オレのどこがケツ臭いって?】


「そんなこと言ってないから」


 まぁ面白い奴なのは間違いないし、退屈はしなさそうだから良いか。

 そう思って、ある程度のことは割り切っている。

 アンディーにベルゼを紹介したあと、いくつか材料を購入して店を出た。

 帰り道はベルゼも黙っていてくれて、すんなりと宿屋に戻れたよ。


【なぁ、そんなもん何に使うんだ?】


「魔道具作成の材料だよ。最近新しく手に入れた素材もあるし、いろいろ試そうかなって」


【魔道具? お前魔道具作れるのかよ】


「ああ、この魔道書のお陰でスキルが手に入ったから」


 俺は魔工の書をベルゼに見せる。

 すると――


【おぉ~ 魔工の書か、懐かしいじゃねーか】


「えっ、知ってるの?」


【知ってるも何も、そいつを作ったのはオレの部下だぜ】


「そうなの?」


【おう。めちゃくちゃ優秀な魔道師でな~ ゼロからどんな道具でも作り出して……ん? スキルっていったか?】


 ベルゼは話を中断して質問してきた。

 俺は頷いて答える。


「そうだよ? 魔道具作成スキル」


【そいつは変だな。魔道書に刻まれてるのは、あくまで魔法について情報だ。そいつを読んで手に入るのは練成魔法の亜種だと思うが……】


 ベルゼが俺をじっと見ている気がする。

 目がないのでわからないが、注目されているような感覚だ。


【あぁ~ お前もしかしてあれか? 魔法の才能全くないだろ】


「うっ、たぶんそうだと思うけど」


【そういうことかよ。魔法の才能ゼロだから、スキルっつう形に落とし込むしかなかったわけか。道理で不完全なわけだぜ】


「不完全?」


【ああ】


 ベルゼ曰く、本来の魔道具作成は、完全にゼロから何でも生み出せるらしい。

 必要な魔力さえ注ぎ込めば、複雑な能力も付与できる。

 ただ、俺の場合は二つ以上の能力を付与する場合、見合った素材が要求される。

 それがベルゼの言う不完全という点だ。

 まさか、ここに来て俺の才能のなさと向き合わされるとは思わなかった。

 自分のスキルについて知られたのはいいけど、ちょっとガッカリしたよ。

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