49.ミレイナの苦悩(追放側視点)

 戦いを終えた俺たちは、ベルゼの宝を回収してダンジョンを出た。

 このダンジョンはベルゼの魔力で維持していたらしく、彼が外へ出たことで、ダンジョンは完全に消滅してしまう。


「よかったのか?」


【別に構いやしねーよ。何の未練もねぇ】


「そうか」


【しっかしお前おもしれー眼を持ってるんだな】


「眼? 鑑定眼のこと?」


【ああ? 今はそう呼ばれてんのか】


「昔は違ったの?」


【違ったーと思うぜ。あんま詳しくは覚えてねーな。なんせ何千年も前の話だからよぉ】


 ベルゼはそう語った。

 大昔にも鑑定眼があったことに驚きながら、俺の頭では別のことが浮かんでいた。

 鑑定眼についてふられられると、どうしても過ぎってしまう。

 そういえば、彼らはどうしているのだろうか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 シンクとの決闘後、ガランたちパーティーは二週間の謹慎処分を受けていた。

 あれだけのことをして、二週間は短いと思うだろう。

 ただ、彼らは腐っても上級パーティーだ。

 彼らが不在になることで、完了できないクエストも出てくるだろう。

 そこを考慮し、十分に反省すると誓った上で、二週間と言う期間が定められた。


 そして二週間はあっという間に過ぎる。


 ギルド会館へ向かうミレイナ。

 彼女は浮かない表情で、とぼとぼと歩いている。

 数歩進むごとにため息をもらし、すれ違うほかのパーティーを眺める。


「今日こそ伝えないと」


 彼女はパーティーを抜けようと考えていた。

 理由は言うまでもないだろう。

 むしろ、もっと早い段階で動き出してもおかしくない状況だったはずだ。

 それが出来なかったのは、偏に彼女の心の弱さにある。


 せっかく誘ってもらえたのに申し訳ない。

 そんな中途半端な良心が邪魔をして、これまで踏み切れなかった。

 それも今日で終わる。

 謹慎開け、久々に会ったとき、彼女は言おうと決めていた。


 ギルド会館に到着する。

 昼間で戻ってきたパーティーで賑わう中、テーブルの一つにガランたちが座っている。

 ゆっくりと近づくと、途中から声が聞こえる。


「くそっ! シンクの奴……絶対にゆるさねぇ」


「ホントにさ。なんであたしらだけ謹慎なんだよ。向こうだって受けたじゃん」


 そんな会話が聞こえる。

 案の定ではあるが、彼らは反省などしていない。

 責任を転嫁して、シンクたちを責めている。

 これにはミレイナも呆れてしまう。

 ガランが彼女に気付く。


「おぉー遅かったな。久しぶりだ」


「は、はい」

 

 ガランは急に口調を変え、優しい表情で話しかけてくる。

 他のメンバーも同様で、ミレイナには優しく接している。

 さっきまでが嘘のようで、別人にも思える。

 これも、ミレイナが脱退を言い出せない理由の一つだ。


「あ、あの!」


「どうした?」


 ガランはニッコリと微笑む。

 この笑顔が逆に怖くて、ミレイナは尻込みしてしまう。

 まるで、抜けるなんていうなよと言われている様で……抜けたらどうなるかを想像してしまう。

 きっと嫌がらせを受けるんだ。

 そう思うと、あと一歩の勇気が出ない。


「なんでもないです」


 そうして今日も、彼女は口を紡ぐ。

 勇気がない自分を情けなく思いながら、シンクのことを思い出す。

 あの人のようにハッキリと、自分の口から本心を言えたなら……きっと何より良いことだろうと。

 ほんの少しの勇気だけで、彼女は変われるはずなんだ。

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