51.人ごみに揉まれながら

 それぞれの休日を過ごし、二日が明けての早朝。

 俺はベルゼと一緒にギルド会館へ向かっていた。


【やっと冒険再開かぁ?】


「ああ。そうだけど、道端でしゃべらないでくれるかな?」


【いいじゃねーかよ。どーせ俺たち以外はいねーえんだし】


「はぁ……ギルド会館についたら静かにしていてくれよ」


【おう】


 そんな話をしていると、後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


「おーい! シンクー!」


 ミアの声だった。

 振り返ると、三人が駆け足で向かってきている。

 俺は立ち止まって、彼女たちを待つ。


「おはよう、三人とも」


「おはよう! シンク」


「おっはよー!」


「おはよう」


 三人それぞれのあいさつが返ってきた。

 キリエがベルゼに気付く。


「こいつも一緒なんだな」


【こいつじゃなくてベルゼだ! ちゃんと名前くらい覚えとけよ、イノシシみてーな嬢ちゃん】


「イノっ、誰がイノシシだ!」


【突っ込んで止まれねーんだろ? イノシシで合ってるじゃねーか】


「それは昔の話だから! 今はちゃんと止まれるから!」


「二人とも落ち着いて。そろそろ人も増えてきたから」


 ベルゼとキリエは相性がよくないらしい。

 どっちも似たようなタイプだと思うけど、同属嫌悪てきなものだろうか。

 そんなこんなで集合した俺たちは、四人そろってギルド会館へ歩いていく。


「三人はよく一緒にいるけど、どこかで集まってから来てるの?」


「ううん。私たち同じ宿屋に泊まってるから」


「そうだったのか。ずっと?」


「ずっとだぜ!」


「もうすぐ一年」


 三人は一年前にこの街へやってきたらしい。

 今さらだけど、俺は彼女たちのことをあまり知らない。

 俺と出会う前の彼女たちが、どこで何をやっていたのか。

 少し興味があるし、タイミングを見て聞いてみることにしよう。


 そうこうしている内に、ギルド会館に到着する。

 中へ入ると、いつもよりも人の数が少ないように感じた。

 それでも十分に賑わっていて、クエストボード前は混雑している。

 キリエがごくりと息を飲んで言う。


「今日からあれに混ざるのか……」


「そういうことだ。逸れない様に注意しよう」


「お、おう!」


 よくわからない気合を入れ、キリエが先陣を切る。

 俺たちもすぐ後ろへつき、人ごみへと突入した。

 人と人に挟まれながら、クエストボード前へと移動していく。

 彼女たちのように小柄な女性だと、この人ごみの中は大変だろう。

 潰されないように掻き分けて、やっとの思いで前に出る。


「ぷはっ! やっと出れた!」


 キリエが水中から上がったように息継ぎをした。

 俺たちはクエストボード前にたどり着き、クエストを選ぶ時間を得る。

 ただし、そんなに長くは選んでいられない。

 後ろから新しいパーティーもやってくるし、いずれ押し出されてしまう。


「一分以内に決めるぞ! 良さそうなクエストがあったら迷わずとってくれ」


 俺がそう言うと、三人は目を凝らしてボードを見る。

 そして、ミアが一枚の依頼書に目を向け、勢いよく外す。


「これが良い!」


 ミアが取ったのは、馬車の護衛クエストだった。

 行き先は隣町のバエルトロ。

 最短でも二日間かかる道のりで、モンスターや盗賊に出くわす危険性が高い。

 報酬もそこそこ高いようだ。


「どうかな?」


「あたしは良いと思うぞ!」


「うん」


「じゃあ決まりだ! というわけで抜けるぞ」


 クエストを選んだら、人ごみを逆そうして出ないといけない。

 人ごみを抜けるまでが大変だ。

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