46.勝っている物

 今の俺に勝機はない。

 身体はボロボロで、立っているのも気力半分だ。

 戦うごとに実感する実力差が、俺にはない強さを見せつけてくる。


 だけど――


 俺にだって勝っている物はある。

 覚悟を決める中で、それに気付くことが出来た。

 勝機はなくとも活路はある。

 強さも速さも劣っているし、才能なんて微塵もない。

 俺に唯一残されたものは――


「この眼だ!」


 限界レベルの鑑定眼。

 この眼だけが、鎧騎士にはない唯一の力。

 そして、この眼によって得られた無限の手段こそ、俺の武器であり最後の希望だ。


 俺はバッグから煙だまを取り出す。

 それを足元に投げつけ、自分と相手の視界を閉ざす。


【自ら視界を閉ざすとは愚か】


「それはどうかな?」


 煙から矢が三本放たれる。

 余裕の反応を見せ、鎧騎士は剣で弾き飛ばそうとする。

 剣と矢が触れた瞬間、矢は光る鎖へと変化し、鎧騎士の腕と剣を拘束する。

 残りの二本も着弾し、上体と脚に撒きついて動きを封じる。


【これは――】


 煙で見えなくなった中で、魔道具作成スキルで新しく作った矢だ。

 まだまだ他にもあるぞ。

 

 鎧騎士は力で強引に拘束を外そうとする。

 そこへさらに別の矢を放つ。

 今度も攻撃ではなく、拘束することが目的の矢だ。


【氷の牢?】


 着弾した矢は氷の結晶となり、鎖で拘束された鎧騎士を固める。

 だが、この程度では鎧騎士は止まらない。

 渾身の力を振り絞るように、鎧騎士は強引に拘束を抜ける。

 

 煙が晴れて俺が露出する。

 そこへ鎧騎士は一瞬で接近し、目にも留まらぬ速さで斬撃を浴びせる。


【――!?】

 

 斬った感覚がない、と鎧騎士が気付く。


「こっちだ!」

 

 鎧騎士は後ろから俺の声を聞く。

 矢は既に放たれていて、着弾と同時に爆発する。


 俺の虚像を映し出す円盤と、透明になれるマント。

 どっちもスキルを手に入れた日に作った物だ。

 しかし、こうも簡単に引っかかってくれるとはな。


「まだ行くぞ!」


【笑止】


 俺が矢を放とうとすると、鎧騎士は魔法陣を無数に展開させる。

 マジックバレットの連射だ。

 ビームを連鎖され、身体がよろめいてしまう。

 引き絞った弦を離すと、矢は上へ飛んでいく。


「くそ……」


【興味深い攻撃であった。だが、それでは足りぬ】


 鎧騎士は無傷で立っている。

 爆発矢は当たっているが、ダメージは感じられない。

 やはり俺では火力に劣るらしい。

 

「そんなことは最初からわかってるさ。俺一人じゃ絶対に勝てないことは」


【ならば――】


「だから、パーティーで戦わせてもらうよ」


 パキパキ――パリン!

 紫色の球体が、三つ同時に砕け散る。

 三人が解放され、俺の後ろに降り立つ。

 それと同時に時計は消えていく。


【一体……何をした?】


「破壊したんだよ。さっき打ち上げた矢は、魔法を強制解除する能力が付与されていたんだ」


 鑑定眼を通してわかったこと。

 それは、彼女たちを閉じ込めていた球体が魔法であるということだ。

 観察できたのは一瞬で、複雑な構造や、鎧騎士の弱点までは見えなかったけど。

 魔法だとわかれば対応できる。

 煙に隠れた中で、三発だけ作り出した魔法解除の矢。

 これを打ち込むために鎧騎士と位置を入れ替え、俺の攻撃に集中させたんだ。


【打ち上げた矢……あれは敢えてか】


「そういうことだ。俺一人じゃお前に勝てないけど、皆がいれば話は別だからな」


 俺がそう言うと、鎧騎士が笑っているように見えた。

 そして、解放された三人が俺を見つめる。

 ミアが申し訳なさそうな弱々しい声で言う。


「シンク……」


「話は後だよ。まずは、こいつに勝とう」


 謝罪を口にしたかったのだろう。

 だけど、彼女はそれを飲み込んで、剣を構える。

 キリエとユイも、武器をとって鎧騎士と向き合う。


 さっき俺は、勝っている唯一なんて言ったけど、まだ他にも有ったな。

 お前は一人だけど、俺には頼れる仲間がいる。


「彼女たちが強いことを、今から証明してやるよ」


【良い。なれば見せてみよ】

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