42.ボスモンスター③氷の女王

 次のボスモンスターは、何をモデルにしたのかハッキリしない。

 戦ったパーティーの証言を合わせると、まるで氷を操る魔女のようだったらしい。

 魔女というのは、大昔に実在した七人の女性魔法使いをさしている。

 それぞれが秀でた魔法の才能を持ち、畏怖と敬意をもってそう呼ばれていた。

 ただ、残っている記述によると、あまり良い結末を迎えていないようだ。

 そのあたりについては、また機会を見て考えるとしよう。


「次はあれだよな? 何か氷の女王とか呼ばれてるんでしょ?」


「ん? よく知ってるな。キリエに話したっけ?」


「シンクからは聞いてないな。酒場で隣の席にいたおっさんが話してたんだよ」


「へぇ~ じゃあ多少は知ってるわけか」


「知ってるって言ってもな~ めちゃくちゃ攻撃範囲が広いってくらいしか知らないぞ?」


「それでも十分だよ」


 冒険者たちから氷の女王と呼ばれている次なるボスは、広範囲に魔法攻撃をしかけてくるらしい。

 聞いた話によると、不用意に突っ込むと一瞬で氷付けにされてしまうとか。

 近接攻撃主体のミアとキリエには厳しい相手だ。


「だから今度は、俺とユイの出番だな」


「うん……頑張る」


 ユイも気合十分な様子で杖を握っている。

 そうして、氷の女王の部屋へと到着。

 扉を開けた瞬間から、息が凍りそうな冷気が漏れ出す。


「さむっ!」


「もういるよ!」


 思わずキリエも突っ込み、ミアが部屋の中央に氷の人形がいることに気付く。

 その氷の人形こそ、この部屋のボスモンスターだ。

 俺たちを認識した途端、女王は自分を中心に魔法陣を展開する。

 魔法陣から伸びる氷のツル。

 次々に数を増やし、女王の周囲を覆ってしまう。


「うわっもっと寒くなったじゃん!」


「文句言ってないで構える!」


 俺がそう言ったタイミングで、氷のツルがこちらへ迫ってくる。

 ミアとキリエが前に出て応戦し、ツルを斬る。

 硬度はそこまで高くないため、簡単に切断することは出来るようだ。

 だが――


「数が……多い」


 ミアが苦戦するレベルで、ツルが次々に迫って来る。

 切断されても新しいツルが再生成され、彼女たちに襲い掛かる。

 そこへ――


「二人とも横に跳べ!」


「プロミネンス」


 ユイが魔法を放つ。

 氷に対して炎は有利な攻撃だ。

 氷のツルを溶かしながら、炎の柱は女王へ迫る。

 ただし、女王まで炎は通らなかった模様。

 それでも射線さえ通れば、俺の矢で射抜ける。


「とった!」


 貫通矢の雨が女王に迫る。

 女王はツルを新たに生み出し、連射した矢を防御しようとする。

 が、俺の矢のほうが一瞬速く到達し、女王の頭を弾き飛ばす。

 女王が倒れたことで、周りに残っていたツルが、パリンと音を立てながら消えていく。

 弾けとんだ氷の結晶は、景色をきらめき輝かせていた。


「ナイスショット!」


「ユイの魔法も相変わらず凄い威力だね」


 キリエが俺を、ミアがユイを褒めてくれた。

 褒められるのも慣れてきた気でいたけど、やっぱり何度聞いても嬉しいものだな。


 二体目のボスを倒した俺は、バックから懐中時計を取り出す。

 ユイが尋ねてくる。


「時間は大丈夫?」


「まだ四十分経ってないな」


「そう。残り二十分」


「ああ」


 どうして時間を気にしているかというと。

 昨日の夜に日記をもう一度読み直して、正しい順序以外に気付いたことがあったからだ。

 最後のページから二ページ戻った場所に、時間についての記載があった。

 すでに劣化が進み、細部までは読めなかったが、そこには一時間という文字が書かれていたんだ。

 これも予想でしかないけど、一時間以内に攻略しろということなのではと考え、俺たちは全速力で移動して戦い続けている。

 

 そして、最後に待つのヒドラの部屋。

 三体目を倒した先に、果たして何が待っているのだろうか。

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