43.四つ目の部屋へ

 ミノタウロスと氷の女王。

 二体のボスモンスターを倒した俺たちは、三体目のボスモンスターヒドラと戦っていた。

 強敵ではあるものの、二度目の戦闘だったことが幸いし、無傷で勝利を収める。

 ヒドラが光の粒子となって消えていく。


「よっしゃ! 楽勝だったな!」


「さすがに二回目だからね」


「慣れた」


 三人とも表情に余裕がある。

 連戦での疲労はあるようだが、まだ動けそうだと安心する。

 ふと、懐中時計を確認すると、時間はちょうど一時間が経過するところだった。


「ギリギリか。でもこれで――」


 ヒドラの粒子が完全に消える。

 その瞬間、部屋の床全体を覆うほど巨大な魔法陣が展開される。

 淡いオレンジ色に光を放っている魔法陣は、俺たちを包み込むように広がる。


「な、何々!?」


「まさかトラップ!?」


「いや違う! 全員一箇所に固まれ!」


 俺が指示を叫ぶと、三人が俺に向かって走ってくる。

 手を繋ぎあい、逸れないように身を寄せ合う。

 俺の勘が正しければ、この魔法陣は――


 魔法陣の光がさらに強まり、俺たちは目を開けられなくなる。

 そうして僅かな時間だけ、身体が宙に浮かんだような感覚に襲われる。

 その感覚がなくなったところで目を開けると、そこ広がっていたのは見慣れない部屋だった。


 大きさや形は、さっきまでいたボス部屋と似ている。

 しかし、明らかな違いがある。


「何だここ……真っ黒じゃんか」


 キリエが天井を見上げてそう言った。

 彼女が言ったように、この部屋の天井は黒い。

 天井だけでなく、床や壁も含む全てが黒で包まれている。

 この場にいるだけで不安になるような部屋だ。


 ミアがぼそりと口にする。


「ここが……地図にあった新しい部屋なのかな?」


「おそらくな」


「ていうかそれしかないだろ」


「でも……何もない」


 四方を包む色は違っても、殺風景であることは変わらなかった。

 俺たち以外に誰もいないし、宝らしきものもない。

 ボスが待っているわけでもなく、ただ広いだけの空間だった。

 何気なく天井を見上げると、紫色の光がいくつも見える。

 これだけ真っ黒でも視界が保たれているのは、あの奇妙な光のお陰なのだろうか。


「しかし本当に何もないな」


【そう見えているのは、お前たちが未熟だからだ】


 突然、どこからか声が聞こえてきた。

 低い男の声だ。

 この広い部屋に響く声ではなく、俺たちにだけ聞こえるような声量。

 俺たちは声のした方をに目を向ける。

 

 そこには、漆黒の鎧騎士が堂々と立っていた。


 気配はなく、立っていることに気付けなかった。

 それなのに姿を見た瞬間から、全員が察する。

 

 この騎士は――これまで会った誰よりも強い。


 鎧騎士が右手をかざす。

 俺たちは警戒し、武器をとろうと動く。

 が、すでに遅かった。


「えっ――」


「うおぁ!」


「っ……」


 三人が一瞬にして紫色の球体に囚われてしまう。

 球体は宙に浮き、そのまま鎧騎士の後方へと移動する。


「皆!」


 俺はすぐに助け出そうとした。

 しかし、鎧騎士が剣を地面に突き刺した衝撃で、出した足が止まってしまう。

 攻撃してきたわけじゃないのに、圧倒的な力を感じて身がすくんだんだ。


【ここへたどり着いた強者よ。汝の力を示すが良い】


 鎧騎士は剣を抜き、切先を俺に向けて言い放った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る