32.次のクエストは?
ギルド会館は今日も賑わっている。
早朝からギルドボード前には長蛇の列が出来ていて、良いクエストはないかと声が飛び交う。
クエストは早い者勝ちがほとんどだから、朝はいつもこんな感じだ。
俺たちはというと、そんな光景を遠くの席で眺めている。
「はぁ……あたしらもアレに加わるんだよなぁ」
「そうだね~」
「……窒息しそう」
「毎日そうだと案外慣れるぞ?」
「「「えぇ……」」」
「そこで声を合わせられてもなぁ」
三人とも早朝のクエスト争奪戦には参加したくない模様。
活動再開後の二週間も、あと二日で終わる。
そうしたら宣言通り、俺たちも上級パーティー用のクエストを受けるつもりだ。
そして、上級パーティー用のクエストを受けるということは、つまりそういうことだ。
「で、今日は何を受けるんだ?」
キリエが俺のほうを見て尋ねてきた。
二人も俺へと目を向ける。
キリエが続けて言う。
「あたしはモンスター討伐が良いんだけど」
「知ってるよ。だから今日は、とっておきの案件だ」
「とっておき?」
「おっ! 何々?」
ミアが首をかしげ、キリエが身を乗り出して尋ねてきた。
ユイも興味ありそうに俺をじっと見つめている。
俺は咳払いをする。
「おほんっ、今日はダンジョンに潜ろうかと思うんだ」
「ダンジョン!」
キリエが興奮気味にそう言った。
彼女だけじゃなくて、ミアも目を輝かせている。
逆にユイはちょっと微妙な表情。
俺は話を続ける。
「山岳エリアに新規のダンジョンが発見されたって話は知ってるよね?」
「あぁ~ 確かあれだよな。登山が趣味の冒険者が発見したっていう」
キリエが思い出しながらそう言った。
俺は頷いてから続ける。
「そう。あのダンジョンに潜ろう」
「でも、あそこは確か探索済みだったような? それに噂だと何もなかったって」
「ミア、よく知ってるな。そうなんだよね。もう発見されてから結構経っているし、攻略も進んでる」
多くのパーティーが宝を求めてダンジョンへと潜った。
しかし、目当てのお宝はどこを探してもなかったという。
最深部までたどり着き、番人らしきモンスターにも勝利したパーティーですら、何の成果も得られなかったそうだ。
以来、そのダンジョンを攻略するパーティーは激減した。
現在ではほぼゼロと言っても良い状況だ。
「そんなダンジョンに潜って意味があるの?」
「意味ならあるさ。三人ともダンジョンは未経験だよね?」
三人はこくりと頷く。
ちなみに俺は、前のパーティーのときに何度か潜った経験がある。
新規のダンジョンじゃなかったから、随分と攻略が進んでいたダンジョンだけどね。
「ダンジョンには危険が多い。それもダンジョンならではの危険だ。そういう経験は今後の冒険に大きく役立つと俺は考えている」
「なるほど~」
ミアはふむふむと頷きながら聞いていた。
「あと他にも理由はあるよ」
「他の理由?」
「ああ。お宝を探すんだ」
「宝はないって話じゃなかったっけ?」
キリエが首をかしげてそう言った。
俺はにやりと微笑み、彼女に言う。
「そういうことになってるな。でもさ? 新規のダンジョンでお宝がないなんて……そんなことありえないと思うんだよ」
「そうなの?」
「そりゃーそうさ。だってダンジョンは、大昔の誰かが自分の持ち物を保管、隠すために作った施設だぞ? それで中身が空っぽなんておかしいじゃないか」
「あー、確かに」
キリエも納得して聞いている。
俺はさらに言う。
「見つけられなかったんだと思う。そういう仕掛けがあって、誰もまだ気付いていないんだよ」
「そう……なのか?」
「何だかシンクが言うと、そんな気がしてくるね」
ユイが頷く。
どうやら三人とも、ダンジョンに興味が出てきたようだ。
「じゃあ決まりでいいか?」
「いいよ!」
「おう!」
「うん」
黒竜を撃退した俺たちはダンジョンへ挑む。
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