31.偶には採取クエストも良い
空を小鳥が飛び去っていく。
流れる雲は緩やかで、風もなく陽気が差し込む。
踏みしめる地面の凹凸が、足の裏から伝わるごとに、転ばないよう気を張る。
目を右へ左へ動かして、目的の物を探していく。
「あったよ!」
ミアが声をあげ、指をさす方向に俺たちも目を向ける。
たくさん生えている木の一本。
その根元には、淡い緑色の特徴的な草が生えていた。
「シンク! あれで合ってるよね?」
「ああ。ヒール草で間違いないよ」
ヒール草は、回復ポーションの材料として使われる薬草だ。
他にも塗り薬や興奮剤、鎮痛剤など多種多様な薬品に用いられている。
こういった森の中に生えているが、小さいし群生はしていないので、見つけるのは大変だったりする。
ミアはヒール草を根ごと引っこ抜く。
ちぎってしまうと急激に劣化するから、根っこも一緒にとるのがポイントだ。
「これで七本だっけ?」
「いや、俺も今見つけたから八本だ」
「じゃあ残り二十二本だ!」
俺たちが受けているのは採取クエスト。
内容はヒール草三十本の納品だ。
三十本以上納品した場合は追加報酬もあるお得なクエストで、モンスターと戦う必要がないから比較的安全な部類。
怒涛のような戦いの連続から、今日でちょうど一週間。
ワイバーン戦から黒竜の襲来、祝勝パーティーとその後のイザコザ。
目まぐるしく変化する毎日に疲れた俺たちは、三日ほど連休を挟んで活動を再開した。
「採取クエストも意外と楽しいんだね!」
「そうだろ? モンスターと戦うばかりが冒険じゃない」
「うんうん! 勉強にもなるしね」
俺とミアがそんな話をしていると、少し離れた場所でかがんでいたキリエが立ち上がる。
小さくため息をこぼしながら、彼女は振り返って言う。
「あたしは戦ってるほうが楽しいけどな」
キリエは不満げな顔をしている。
確かに彼女はそうだろうなと、俺もミアも思っていた。
「なぁ? ユイも……」
「ん?」
キリエが話をふろうとすると、ユイがこっちを向く。
そして、手には大量のヒール草を抱えていた。
俺も知らぬ間にあんな数を見つけていたのか。
素直にすごいと思う。
話しかけたキリエは、若干呆れたような顔をしていた。
「そうでもなさそうだな」
キリエは退屈そうに下を向く。
「はははっ、まぁそんな顔しないでくれよ。明日はモンスター討伐にしよう」
「本当か? なら頑張ってもいいぞ!」
俺がそう言うと、水を得た魚みたいに働き出した。
わかりやすい子だな。
キリエは戦いが好きっていうより、運動する方が好きらしいから。
こういう採取系とか探索系のクエストは乗り気になりにくい。
そうでなくても今さら感はあるだろう。
ヒール草の採取は、下級のパーティーが受ける依頼の一つ。
以前の俺たちならともかく、今の俺たちにはぬるい内容ではある。
このクエストだけじゃない。
活動を再開してから、俺たちが受けているのは、どれも簡単なクエストばかりだ。
そこにはちゃんと理由はある。
俺たちは今後、上級パーティー向けのクエストに挑むつもりだ。
だけど、いきなり難易度の高いクエストを受けるのは、あまり良くなかったりする。
なぜなら、このパーティーには経験が不足しているからだ。
高難易度のクエストでは、知識や経験の差が成否に大きくかかわってくる。
だからこそ、そういうクエストを受ける前に、少しでも色々なことを知っておいたほうが良い。
という話を俺が皆に伝えた。
なるほどーと納得して聞いてくれて、現在に至っている。
予定では、二週間くらいは下級から中級のクエストを受けていくつもりだ。
「シンク」
「ん?」
「採れた」
「もう? 早いなぁ」
そうこうしている内に、ユイがどっさりと採取したヒール草を見せてきた。
キリエとは真逆で、ユイは採取クエストが好きみたいだ。
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