29.決闘開始
ユイを人質にとられた俺は、不本意ながらガランとの決闘を受けることにした。
大声で助けを呼べばよかったのかもしれないけど。
何となく、取り返しのつかない結果になりそうだった。
ガランの歪んだ表情を見ていると、そう感じても不思議じゃないと思う。
俺たちは場所を移す。
さすがに人が通りそうな道の真ん中で決闘するつもりはないらしい。
微妙に考えている所を見ると、完全に冷静さを失っているわけでもないのか。
だとしたら、もっと悪質だけど。
そうして移動した先は、路地を抜けた人気のない裏地。
周囲を民家ではなく倉庫に囲まれた場所だ。
ここは元々人通りが少ないし、こんな時間に来るような場所でもない。
加えて――
「ユナン」
ガランのパーティーメンバーの一人。
魔法使いのユナンが人払いの結界を発動させた。
これでちょっと暴れたとしても、周囲には気付かれない。
「これで思う存分戦えるなぁ」
「……ああ」
俺とガランは三十メートルほど離れて向かい合う。
ガランは剣を抜き、俺は弓を構える。
それぞれの後ろには仲間がいて、ユイはティアラに捕まったままガラン側にいる。
ちらっと目を向けると、申し訳なさそうな表情で俺を見ていた。
そんな顔をしないでくれ。
悪いのは、巻き込んでしまった俺なんだから。
「確認するけど、決闘が終われば彼女を解放してくれるんだな?」
「もちろんだぁ。本当はもう解放してやってもいいが、暴れられても面倒だからなぁ」
「そうか。あと、もう一つ確認するけど、武器も自由でいいんだな?」
「ああ、好きな武器を使えよ」
ガランはニヤリと笑いながらそう言った。
特殊な武器があると知りながら、その使用を制限しない。
表情から読み取れるのは余裕だ。
どうして余裕でいられるのか、俺にはわからないけど、彼はまだ俺をなめているらしい。
「さぁ来いよ裏切り者! てめぇなんて一瞬で斬り殺してやる!」
「殺すのはなしじゃなかったのか?」
「さぁーなー! 勝手に死んだらてめぇーが悪いんだよ!」
訳のわからないセリフを吐き、ガランが接近してくる。
決闘は合図もなく突然始まった。
俺は慌てて矢を持ち構える。
距離的には、飛び道具のこちらが有利。
接近されれば不利になるから、その前に撃つことが正解だ。
だけど――
「おらぁ!」
「っ……」
俺は躊躇い、ガランが剣を振り下ろす。
弓の僅かな金属部分で受け止め、距離と取りなおそうと試みる。
それよりも速く、ガランの蹴りが腹部に入る。
「うっ……」
よろめいた所へガランは追い討ちをかけてくる。
俺は無理やり身体を動かして距離をとる。
弓を構えて撃とうと試みるが、上手く身体が動いてくれない。
「逃げてんじゃねぇ!」
「くそっ!」
防戦一方の俺を見て、彼女たちは心配そうな表情を浮かべている。
「なんで撃たないんだよ……シンクなら――」
「たぶん撃てないんだよ」
「なっ! もしかして怪我でもしてるのか?」
「違うよキリエ。そうじゃなくて……シンクが優しすぎるんだ」
優しいのではなく甘い。
俺が撃てないのは、ガランを傷つけてしまうことを躊躇っているからだ。
この期に及んで、これだけのことをされて、まだ彼を敵だと思えない。
自分が情けなくなりそうだ。
「はっ! やっぱこの程度じゃねーかよ! そんな大層な武器があっても、所詮てめぇは無能だなぁ!」
自分が優勢だと悟ったガランは、得意げに笑いながら剣を振るう。
彼の言う通りかもしれない。
結局、このまま戦えば俺は負けてしまいそうだ。
どうしようもない。
身体が言うことを聞いてくれない。
「なめた態度とってもこれで終わりか? どうせてめぇの仲間も、特別な武器がなきゃなんもできないカスなんだろーなぁ!」
ガランの口から放たれた誹謗中傷。
その矛先が俺ではなく、彼女たちに向けられている。
戦いの最中、彼女たちの顔が見えた。
そうしたら、自然に身体が動いて、矢を射っていた。
射った矢はガランの頬を掠める。
「っ――!」
「彼女たちを悪く言うな」
自分でも不思議なくらい、簡単に矢を射っていた。
身体の中から熱が湧き上がってきたような感覚だ。
今だったら、戦える気がする。
「行くぞ」
俺は矢を連射する。
当てるつもりなく、彼の前に撃って視界を塞ぐのが目的。
その隙に空気を蹴り上空へ移動。
さらに接近して、ガランの背後へ立つ。
「くそっ! どこに――」
「こっちだ」
咄嗟に振り返るガラン。
彼の顔面を、俺は思いっきり殴り飛ばす。
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