28.難癖付けられ決闘へ
賑やかな宴会は夜の十時まで続いた。
解散の時間になると、参加した冒険者たちがゾロゾロと帰っていく。
俺たちも帰りたい所だったけど、また人ごみに阻まれても良くないから、ある程度の人たちが帰るまで待つことにした。
三十分ほど経過して、ギルド会館周辺からガラッと人がいなくなる。
街の居酒屋や飲食店は営業中で、一部の冒険者は二次会へと足を運んでいるようだ。
そんな中で俺たちはというと――
「帰ろうか」
「賛成」
「だな」
「うん」
満場一致で帰宅を選択した。
当然だろう。
昨日は黒竜に関する説明とか処理で、一日中てんやわんやだったし。
ようやくの休みだ。
明日は休日とも決めたし、思う存分寝られるぞ。
そう思って帰り道を進んでいく。
もう少し行けば、俺と彼女たちの別れ道にさしかかる。
そこに彼らが待っていた。
「おい……シンク」
「ガラン?」
だけじゃない。
彼のパーティーメンバー全員が一緒にいる。
そして、ガランは鬼のような顔で俺を睨んできていた。
彼は声を震わせながら言う。
「てめぇ……俺たちに何か言うことがあるんじゃないのかよ」
「えっ、何の話?」
「惚けんじゃねーぞ!」
ガランは声を荒げて叫んだ。
俺の後ろにいた彼女たちが、同時にビクリと反応している。
なぜかガラン側でも、新人の女性が怯えているように見えた。
「ど、どういう意味?」
「あの武器は何だ? てめぇ俺たちに隠してやがっただろ!」
ここでようやく理解した。
彼が怒っているのは、俺が使っている魔道具のことだ。
一緒にパーティーを組んでいた頃は、まだ魔道具作成スキルを持っていなかったし、このスキルのことは彼女たちと一部の信頼できる人にしか伝えていない。
もちろん彼らにも一切教えていない。
「あんな武器持ってるのに何で隠してやがった! 聞いてみりゃー他の奴の武器もてめぇーが渡したんだってなぁ?」
どうしてそれを知っているんだ?
彼らに教えるような人に伝えた記憶はないぞ。
どこかで情報が漏れていたのか、聞かれていたのかもしれない。
どっちにしろ良くない状況だ。
「俺たちを騙してやがったな! 無能なふりして影で笑ってたんだろ? あぁ?」
「そ、そんなこと思って――」
「うるせぇ! てめぇの意見なんて聞くか!」
「そうよ! この裏切り者! 拾ってあげた恩を仇で返すなんて最低ね」
ガランにティアラまで被せてきた。
彼ほどではないが、彼女も冷静さを欠いている。
怒りの所為で、とても話が通じるような状態じゃなさそうだ。
いや、それよりも聞き捨てならないセリフが聞こえたな。
裏切り者だって?
先に裏切ったのはそっちじゃないか。
彼らの言い分に腹が立つ。
だけど、言っても無駄だとわかっているから、長く呼吸をして落ち着かせる。
すると――
「裏切り者はそっちだろ?」
俺が思っていたことを、キリエが代わりに言い放った。
「そうだね。シンクは悪くないよ」
「うん。最低は向こう」
さらにミアとユイまで付け加える。
「んだとてめぇら……喧嘩売ってるよなぁ」
これがガランの怒りをさらに覆って、今にも襲い掛かりそうな形相になる。
一歩ずつ近づいてきて、本当に襲ってきそうな雰囲気だ。
そんな彼に、俺が一歩前に出て言う。
「それ以上は近寄らないでくれ」
「シンク!」
「用があるのは俺だろう?」
「あーそうだなぁ! てめぇだよシンク! 俺と決闘しろ!」
「決闘?」
「そうだ! 一対一で俺と戦え! 俺が勝ったら、お前たちの装備は全部いただく。お前が勝ったなら、全財産でもくれてやるよ!」
「なっ、何を言っているんだ? そんなことできるわけないだろ?」
街の中は死闘厳禁だ。
それ以前に、出された条件がおかしいだろ。
「出来ないっていうのかぁ?」
「当たり前だろ」
「そうか……だったら――ティアラ!」
「よっと」
「っ……」
いつの間にかティアラが背後に回り、ユイを掴んで拘束していた。
喉元にナイフをつきたてられている。
「ユイ! ガラン! これはどういう――」
「動くんじゃねぇ! シンク、てめぇーが決闘を受けないなら、こいつの皮を剥いでやる」
ガランはハッキリとした口調で言い切った。
驚愕して思わず絶句する。
冗談だと思いたかったけど、表情が本気だとわかる。
ティアラも目が据わっているようだ。
これはもう……
「わかった。決闘を受ける……だから彼女には手を出さないでくれ」
こうするしかない。
ガランはニヤリと笑う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます