25.戦闘は続いている!

 ダッシュの体勢から空気を踏みしめ、流星のごとき一閃が走る。

 キリエの突進は、このパーティーの中でダントツの貫通力を誇っている。

 狙いはドラゴンの頭部。

 俺の矢で鱗が削れ、内皮の一部が露出している部分。

 いかに黒竜といえど、頭部を貫かれれば一たまりもないはずだ。

 俺とミアで片翼に傷をつけ、ユイの魔法で地面に縫いとめている。

 ここにキリエの速度で攻撃すれば、黒竜とてかわせない


 しかし――


「なっ……」


 黒竜は頭部だけを動かし、キリエの突進に牙で対抗してきた。

 頭部を狙った一撃は、黒竜の牙で阻まれる。

 牙の一本が砕けて地面に落ちたが、残念ながら大したダメージにはなっていない。


 嘘だろ?

 あんな状態でも対応できるなんて……


「まだだ!」


 初撃は失敗してしまったが、キリエは諦めていない。

 即座に距離をはかり、突撃の体勢を整えている。

 幸いなことに、まだ黒竜はユイの魔法で動けていない。

 だったら次は――


「ミア! 俺たちも合わせよう!」


「了解!」


 三人同時の攻撃ならどうだ?

 キリエの突進は速いけど、直線でしか動けないという欠点がある。

 だけど、そこに俺たちが加われば、彼女の欠点を補える。

 ちょっと首を動かした所で、俺とミアなら対応できるぞ。


 今度こそ!


 全員が心の中でそう叫んでいた。

 圧倒的な力を持つ黒竜。

 倒せるチャンスは、きっと今しかない。


 だが……

 黒竜の強さは、俺たちの想像を遥かに超えていたらしい。


 俺たちが攻撃で接近し、眼前へと迫った瞬間。

 黒竜の身体に変化が起きる。

 全身からどす黒いオーラを放ち、これまでにないほどの叫びを上げる。

 動けなかったはずの翼を動かし、無理やり魔法の効果から逃れてしまう。


「そんな――」


 魔法を発動していたユイが一番動揺を隠せない。

 彼女は一瞬たりとも拘束の手を緩めていない。

 確実に捉え、黒竜を地面に押し付けていた。

 突然の変化に驚き、俺たちは接近を中断する。

 俺たちは各自の判断で動き、一旦距離をとろうと後退する。


 刹那。

 俺と黒竜の目が合う。


 直後に初めて見せるモーション。

 両翼を大きく広げ、顎を天に向けて吼える。

 そして、弱点であるはずの口を開けて、俺のほうへと向ける。


「何を……」


 開けた口に赤黒いエネルギーが収束していく。

 超高濃度の魔力が集まっていく。

 俺たちはすぐに理解した。

 今から放とうとしている一撃こそ、黒竜の持つ最大の攻撃手段に違いない。


「まさか……」


 ――ドラゴンブレス。


 放たれる破壊の一撃。

 俺の視界を赤黒いエネルギーが遮断する。

 もはや回避は間に合わない。

 死を悟った俺の脳裏には、走馬灯が流れる。


「マジックバレット!」


 死ぬのはまだ速い。

 そう言わんばかりにユイが叫んだ。

 彼女は魔法陣を無数に展開させ、魔力エネルギーを収束させたビームを放つ。

 ドラゴンブレスが俺に当たるより前に、彼女の攻撃が側面からブレスに当たる。

 威力的には劣っているが、それによってブレスの方向がずれる。

 まさに間一髪。

 ギリギリのところをブレスが掠めていく。


「た、助かった?」


 俺は自分の生存を疑ってしまったが、直後には冷静さを取り戻す。

 ユイの魔法に助けられた。

 だけど、確か彼女の残り魔力は、ここへ来た時点で指輪一個分だったはず。

 つまり、今の攻撃は指輪ではなく自身の魔力を消費した。


「っ……」


「ユイ!」


 予想通り、彼女は魔力切れで落下していく。

 逸早く気付いた俺が駆け寄り、地面と衝突する前で抱きかかえる。


「シンク……良かった」


 俺の胸でぐったりしているユイは、鼻血を流しながら安堵する。


「ああ、お陰で助かったよ」


 俺がそう言うと、嬉しそうに微笑んで、疲労が押し寄せ気絶する。

 だけど……


「どうする……」


 彼女のお陰で命は繋いだとは言え、状況的には最悪と言って良い。

 切り札だった矢は使い切り、ユイは戦闘継続困難。

 ミアとキリエも連続戦闘の疲労が見受けられる。

 とてもじゃないが、戦える状態じゃない。

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