24.起死回生の一矢
黒竜との決戦が始まる。
四方へ回避した俺たちは、次の行動へと移る。
しかし、打開策を知っているのは一人だけ。
他の三人は、手があるということしか知らない。
つまり、俺が指示を出さなければ、彼女たちは動けない。
「ミアは撹乱に動いて! ユイは重力系魔法、キリエは突撃準備して待機! 一定距離を保って!」
「了解!」
「おう!」
「うん」
作戦の指示を簡潔に伝えた。
三人は返事と同時に動き出している。
ミアの役目は、黒竜の周囲で動き回り注意をひきつけること。
「援護する!」
黒竜へ接近するミア。
俺は貫通矢を連射して援護する。
だが、俺の貫通矢では黒竜の衣を貫けない。
黒竜もそれがわかっているから、最初は意に介さない。
「はっ!」
ミアの連続斬りでも、黒竜には通じない。
それでも目の前でうろちょろされたら意識が削がれる。
その隙に、俺は新しい矢を取り出す。
紫色の鏃がついた矢だ。
見た目でもわかると思うが、この矢はただの矢じゃない。
この矢には――
ドラゴンへの特攻効果が付与されている。
「くらえ」
紫の鈍い光が雨のように発射される。
黒竜はミアに意識が向いていて、俺のほうは見ていない。
通じない攻撃をされても大丈夫だと、高度な知能で判断したのかもしれない。
その余裕の横腹を、無数の矢が削っていく。
黒竜はたまらず翼を羽ばたかせた風圧で、発射された矢をうち落とす。
そのまま高度を上げて矢の雨から逃れた。
「ちっ! だけど効果は有りみたいだな」
ドラゴン特攻貫通矢。
魔力を込めて放つことで、ドラゴンへの特攻効果を持つ貫通矢へと変化する。
これこそが俺の切り札だ。
ワイバーンの何倍も硬い鱗も、この矢であれば削り取ることが出来る。
鱗さえ削ってしまえば、他の攻撃だって防げない。
ただし、本数は有限。
作成にはワイバーンから採取できるコアが必要だった。
元々は追加報酬ようの討伐数確認素材だったけど、黒竜の姿が見えたときに予め作っておいて正解だった。
俺たちが倒したワイバーンは三匹。
コアも三つだから、作成できた矢は三本。
今ので一本消費したから、残りは二本だけだ。
「さすがに一撃じゃ効果が薄いな」
でも、今の一撃で黒竜は知っただろう。
俺の矢が自分にダメージを与えられるという事実を。
これで奴は、俺を意識せざるを得ないはずだ。
黒竜はミアから意識を外し、俺のほうへと飛翔してくる。
ここまでは予定通り。
後は、俺が上手く誘導できるか。
矢を連射する。
今度の矢はただの貫通矢だが、黒竜は回避していく。
どれが自分に通じる矢なのかは、黒竜でもまだわかっていない。
慣れる前に、まずは――
「ミア! 片翼を落とすぞ!」
続けて連射したのはドラゴン特攻の矢。
いかに黒竜と言えど、連射される全ての矢を回避するのは困難だ。
特に両翼は、胴体よりも大きいから当たりやすい。
矢は左翼に当たり、鱗の一部を削り取る。
そこへミアが接近し、すかさず連撃をくり出す。
「よし! ミアは一旦下がってくれ!」
彼女は役目を完遂した。
片翼にダメージが入ったことで、黒竜の飛行スピードが低下する。
まだ十分に速いけど、さっきよりマシになったと実感する。
これなら誘導もしやすい。
俺は貫通矢を使いながら黒竜を牽制。
黒竜は流れるように突進してくる。
それを下へ降りることで回避。
上へ向かって矢を連射するが、それは回避され矢が空へ飛んでいく。
そのまま黒竜は尾を地面に叩きつけ、俺ごと吹き飛ばそうとする。
俺はギリギリで回避し、地面には大きな亀裂が入る。
黒竜はさらに尾を振り回す。
一撃でも食らえば即死の攻撃を、俺は地上で回避し続ける。
「頼むぞ――最後の一本」
この時にはもう、俺の手に矢はない。
最後の一本はすでに放たれている。
「落ちろ!」
上空へと打ち上げた矢が戻ってきて、雨のように降り注ぐ。
さっきの攻撃は、最初から当てるつもりがなかった。
俺はただ待っているだけで良かった。
降り注ぐ矢が黒竜の頭部と背中を削っていく。
ダメージに耐えかねて、黒竜は地上の亀裂へと落ちる。
広く深く、自分で掘った穴にすっぽり嵌る。
「今だユノ! 地面に張り付けろ!」
「グラヴィティーホール!」
ユノの重力魔法が発動。
黒竜の重さを増加させ、亀裂へもっと押し込める。
片翼が傷ついた状態では、増していく重みに耐えられない。
これで暴れても抜け出せない。
最後に――
動けない頭部へ、最速の一撃を食らわせる!
「キリエ!」
「待ってたぜ!」
キリエの突撃が、黒竜の眼前へと迫る。
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