21.危機一髪
中腹下部。
俺たちのパーティーは順調にワイバーンを殲滅して行った。
残りは確認できただけで三匹のみ。
このままいけば、問題なくクエストを終えることが出来そうだ。
「三人ともまだ戦えそうか?」
「うん、何とかー」
「あたしは全然余裕だな!」
「ちょっと疲れた」
三者三様の返答が帰ってきた。
全員無傷ではあるものの、疲労感や魔力消費は否めない。
特にユイは、上級魔法を連発した所為でお疲れモードだ。
消費しているのは貯めた魔力と言っても、発動には体力も消費するからね。
「ユイ、残りの魔力はどれくらい?」
「指輪一つ分」
「かなり使ったな。お疲れさま」
「うん」
そうこうしている内に、三匹のワイバーンも討伐される。
これで下部の役目は終了。
後は中部と上部の完了報告を待つだけだ。
おそらくあちらも順調だろう。
誰もがそう思っていた。
「お、おい……あれを見ろ!」
誰かが気付き、空の向こうに指をさし示す。
青空にかかる雲と雲の間に、黒く大きな何かが飛んでいる。
肉眼ではわからない距離だ。
全員が目を凝らしている。
「何だ……あれ」
「……ドラゴンだ」
別の誰かがぼそりと口にする。
聞こえた者の視線が集まる。
俺も彼を見ると、青ざめた表情で目を凝らしていた。
瞳が薄緑色に光っている。
どうやら『千里眼』スキルを持っているようだ。
そして、彼の千里眼が捉えたものこそ、漆黒の竜だった。
「まっくろなドラゴン? ワイバーンじゃないの?」
「違う! あのサイズは本物の竜だ!」
俺やミアでも肉眼で見れる距離まで近づいてきた。
さらに黒竜は高度を上げている。
「上へ向かったぞ! 上部の連中が危ない!」
「そ、そんな、どうしよう!」
ミアが慌てている。
すでにいくつかのパーティーは下山を開始してた。
俺たちも逃げたほうが良い。
本物のドラゴンなんて、俺たちが束になっても勝てる相手じゃない。
それくらいはわかる。
だけど、上部と聞いて浮かんでしまった。
彼らがそこにいることを、記憶の片隅から引っ張り出してきた。
義理なんてない。
声だって聞きたくないと思っていたんだ。
それでも――
「助けにいこう!」
どうしてそんな風に思ったのか。
自分でも不思議だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
黒竜の尾は、一振りで大地すら裂く。
そんな攻撃を生身で受ければ、どうなるか考えるまでもない。
肉の一片すら残らないだろう。
刹那、ミレイナは己の死を悟った。
恐怖から目を背けるように、自ら視界を閉じる。
「っ――!」
ミレイナは浮遊感を覚える。
自分の身体が地を離れ、風を切って移動している。
死とはそう言うものなのか。
そう彼女は思ったが、すぐに違うことに気付かされる。
感覚が残っている。
音も聞こえる。
誰かに抱きかかえられているようだとわかる。
ミレイナはゆっくりと目を開ける。
「あ、あなたは――」
黒竜の尾は振り下ろされ、地面が裂き亀裂が出来る。
激しい振動と音が響き、先に逃げていたガランたちまで届く。
揺れに耐えられなかった彼らは、膝をついて倒れこむ。
「くそっ……?」
倒れ込んだ拍子に、ガランは黒竜に目を向けた。
そうして、思わぬ光景に目を疑う。
太陽の光を遮る黒竜と、別の誰かが宙に立っている。
その誰かは、彼らがよく知る人物だった。
そして、よく知っているからこそ、信じられない光景でもあっただろう。
そこに立っていたのは、ミレイナを抱きかかえるシンクだった。
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