22.訳有りパーティーの奮闘

 ギリギリだった。

 あと一歩遅ければ、助けられなかったと思う。

 それどころか、自分もまとめてぺしゃんこにされていたかもしれない。

 視界に入ったときには、すでにロックオンされていて、尾を振り下ろそうとしているのがわかった。

 咄嗟に身体が動いてくれたけど、あの状況で迷わずに走れた自分が、ちょっとだけ誇らしい。


「大丈夫ですか?」


 俺は抱きかかえた彼女に優しく尋ねる。

 困惑している様子で、すぐに返事は帰って来なかったが、パッと見た感じ怪我はなさそうだ。

 視界の端にガランたちパーティーが見える。

 かなり離れている所を見ると、彼女を置いて逃げようとしたようだ。


「やれやれだな」


「あの……どうして」


「すみません、説明している暇はなさそうです」


 黒竜が雄叫びをあげ、翼を羽ばたかせる。

 怒っているのだろうか。

 睨むように俺を見ている。

 今にも襲い掛かってきそうだ。


「ユイ!」


「エレクトニカルバースト」


 ユイが雷魔法を放つ。

 黒竜の全身を稲妻が走り、動きを鈍らせる。

 その隙に俺は、彼女をガランたちのいる場所まで運ぶ。

 俺が目の前に降り立つと、ガランは驚き目を丸くしていた。


「お、お前……」


「彼女を頼みます。ちゃんと周りを見てください」


 そう言って、俺は黒竜の前へと戻る。

 背を向けて感じる視線には、様々な負の感情が篭っていることに気付いた。

 きっと振り向けば、鬼のように怒った顔か、劣等感に苛まれている表情が見られたのだろう。

 少しだけ興味はあったけど、今はそれどころじゃない。


「プロミネンス」


 俺が彼女を運んでいる最中も、戦闘は継続していた。

 ユイは連続で上級魔法を使用。

 雷の次は炎で焼き尽くそうと試みる。


 しかし――


 黒竜には効いていない。

 燃え盛る炎を、大きく翼を羽ばたかせて吹き飛ばしてしまう。

 それを見てユイは驚愕を隠せない。


「嘘……」


「ユイ! 一旦下がって!」


 ミアの指示で、ユイは後退する。

 代わりにミアとキリエが、黒竜へ攻撃を試みる。


「せーの!」

 

 キリエの光速の突撃。

 パーティーで一番の貫通力を誇る攻撃だ。

 それを受けても、黒竜の身体には傷すらつかなかった。


「硬すぎるだろ!」


 続けてミアも攻撃を繰り出し、目にも留まらぬ連撃で一点を集中的に狙う。

 斬撃を重ね合わせれば、その分威力も上がる。

 ダメージには近づけるはずだ。

 だが、相手は黒竜。

 その程度では、何もしないのと同じらしい。


 黒竜は翼を広げる。

 強い突風が発生し、風圧で二人が吹き飛ぶ。

 空中で体勢が整わない二人。

 そこへ黒竜はすかさず突進しようとする。


「させるか!」


 俺は爆発矢を連射して放ち、黒竜の突進を阻害する。

 僅かに隙が出来たお陰で、二人の体勢も整い、一旦距離を置くことに成功する。


「シンクありがとう!」


「助かったぁ~」


「……さっきの人は?」


「大丈夫。向こうに送り届けたから」


 俺たちは四人で一箇所に集まり、互いの安否を確かめ合う。

 黒竜も呼吸を整えるように停滞し、じっとこちらを見つめている。

 一瞬だけ下に視線を向ける。

 このエリアのパーティーは避難し終わっているらしい。

 残っているのは、ぼーっと立ち止まっているガランたちだけだ。

 まぁあの距離なら大丈夫だろうけど。


「さて、あとの問題は――」


 この黒竜をどうするかだ。

 伝説のモンスター。

 漆黒の衣を纏いし竜。

 まるで御伽噺の世界に入ったような気分だが、頬を抜ける風が現実だと教えてくれる。

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