19.ワイバーン殲滅戦

 日を跨ぎ、決戦の朝となる。

 いいや、現時刻を考えると、朝には少し早いか。

 全体の集合は午前五時となっている。

 俺たちは一時間前に集まって、新しい装備の確認を済ませた。

 定刻になると、山岳エリアまでは馬車をつかって移動する。

 集まったパーティーは百を超えており、街を出る際はちょっとしたお祭りのようだった。


 馬車での移動は途中まで。

 使えるギリギリまで乗って、そこからは徒歩で山を登る。

 指定された中腹へは、一時間半はかかる。

 ここで少し体力を消耗してしまうだろうが仕方がない。

 ワイバーンは一定の高度を保って移動している。

 中腹までは登らないと、同じ目線で戦えない。


 登っている途中で、キリエがだらーんと腕をぶらつかせながら言う。


「なぁ~ あたしらだけ先に行っちゃ駄目なのかな~」


「駄目だよ。集団行動も大事だからね」


「うぇ~ でもさー、シンクが作った装備があれば、中腹なんてすぐ着くじゃん」


「だとしても、だよ」


「キリエ! 戦いに備えて魔力は温存しないと!」


「ほら、リーダーもああ言ってる」


「はーい」


 そんな感じに進み、指定の高さへ到達する。

 俺たちが配属されたのは、三つの中でも下段に位置する部隊だ。


 到着後、しばらくは待機。

 日の出が戦闘開始の合図となる。


 そして――


 日が昇り、点々と影が見え始める。

 一つ、二つ……一気に増えて、太陽を背に空を覆う。


「来たぞ!」


 誰かが大きな声で叫んだ。

 全員が臨戦態勢をとり開戦と同時に、魔法使いたちが遠距離魔法を放つ。


 開戦だ!


 ワイバーンは飛竜種、小型のドラゴンだ。

 黒紫色の鱗に覆われていて、硬度は鋼鉄の倍と言われている。

 動きが速く、火を吐く攻撃は強力。

 全長は大きい個体で十メートルを超える。


 次々に戦闘が起こる。


「俺たちも!」


「行こう!」


「おう!」


「うん」


 多くのパーティーが地上から応戦する。

 そんな中、俺たちは――空中で戦いを挑む。

 

 俺が新しく作成したのはブーツの魔道具だ。

 この魔道具の能力は、魔力を流すことで空気を踏むことが出来ること。

 その力で空気を蹴って空を翔る。

 飛行魔法も、飛翔のスキルもない俺たちにとって、このブーツは空中戦を有利に進める切り札となるだろう。


「エレクトニカルバースト」


 ワイバーンの一匹をターゲットし、ユイが雷魔法で先制攻撃を繰り出した。

 それによって怯み、ワイバーンは動きを止める。


「そこだ!」


 キリエがすかさず攻撃。

 空気を蹴っての突進で、ワイバーンの片翼に穴を開けた。

 しかし、ワイバーンはまだ飛べる。

 逃走の隙を残さないように、俺は矢を連射する。

 片翼が負傷したことで素早い動きはもう出来ない。


「ミア! トドメを頼む!」


「まっかせてぇー」


 ミアが突っ込む。

 連射で動きを封じ、その隙に連撃を食らわせる。

 ワイバーンの外皮は硬い。

 それでも、斬れるまで斬り続ければ問題ない。


「せーの!」


 ミアは大きく振りかぶって、渾身の一撃を繰り出す、

 ワイバーンの首から腹にかけて斬撃を浴びせ、悲痛な鳴き声をあげさせる。

 俺たちは連携で、ワイバーンの一匹を駆除した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その頃、ガランたちは上部に配置されていた。

 彼らもワイバーンと交戦し、それなりに戦果を上げている。


「はっ! ワイバーンも案外たいしたことないんだね」


「違う違う、俺たちが強いんだよ」


 余裕のティアラとガラン。

 腐っても上級パーティーの一員である彼らは、ワイバーン一匹を倒せる程度の実力は持っている。

 他のパーティーも殲滅を続けて、徐々に数は減っていく。

 作戦は順調に進んでいた。

 

 その瞬間までは――


 突然、何の前触れもなく空が暗くなる。

 全員が不意に見上げると、そこに青い空は見えない。

 代わりに見えたのは、漆黒の衣。

 大きな翼と強靭な顎を有するモンスター。

 ワイバーンの上位互換であり、神話の中で英雄に倒される存在。

 その名は――


「……黒竜?」 

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