18.決戦準備

 会場に設置された大きな時計が、午後五時を示している。

 低い鐘の音が会場に響き渡り、ざわつきが抑制される。

 会場奥の壇上には、すでに司会の男性がスタンバイしていた。

 そろろそろ説明が始まるらしい。


「ちっ……」


 周囲の雰囲気の変化から、ガランも気がそがれたらしい。

 大きな舌打ちをついて、睨みながら別の場所へと去っていく。

 新しいメンバーの女性は、去り際にも会釈をしてくれた。

 やっぱり良い人そうだ。

 ガランたちに苛められていないか心配になる。


 いや、今はそれより……


「キリエ、ヒヤヒヤしたよ」


「うっ……ごめん。でも、あたしは間違ってないから」


 キリエはそう言いきった。

 反省はしてないという表情だ。


「そうかもしれないね。でも……いや、ありがとう。キリエも二人もね」


 形はどうあれ、彼女たちは俺のために怒ってくれたんだ。

 だったら責めることは出来ない。

 言うべきは感謝の言葉だ。

 俺がそう言うと、三人とも恥ずかしそうにリアクションをとる。


 そうこうしている間に、司会が開始のあいさつを終えていた。

 司会が壇上を降りて、別の人物が上がる。

 二メートル近い高身長に、無精髭を生やしたワイルドな中年男性。

 彼がこのギルド会館のトップ。

 名前は確か、リガールだったと思う。


「冒険者諸君、今日はよく集まってくれた」


 顔つきにマッチした野太い声で、リガールは話を始める。


「先に現状を伝える。山岳エリアの北部にて確認されたワイバーンの群れは、尚もこちらに向けて移動中だ。理由は定かではないが、まっすぐこの街に向かってきている」


 先行した偵察部隊によると、ワイバーンの数は一四七体らしい。

 一塊となって移動中で、現在の速度を維持した場合、あと二日で街に到達する。


「その前に叩く! 決戦の地はモール山脈の中腹! 突破されれば街は灰燼と帰すだろう……ゆえに、我々は勝たなければならない!」


 会場にいた何人かが頷く。

 リガールの言う通り、ワイバーンを逃がせば街に甚大な被害が出る。

 俺たちが食い止めるしかない。


「当日は三部隊に分かれ、配置についてもらう。各々で協力し合いワイバーンを駆除してくれ」


 その後は、もう少し細かい説明を受けた。

 ワイバーンを一匹でも逃がせば、それだけで被害が出る可能性が高い。

 だから、集まったパーティーを三つに分割し、上中下と一定間隔で配置するらしい。

 即席の大部隊だから、細かな連携は取れないだろう。

 実際の現場では、それぞれの判断を尊重するとも言っていた。


 そんな感じに話が終わって、一旦は解散となった。

 作戦の決行日は明日の早朝。

 日が昇る前に街を出て、日の出と共に開戦する予定となっている。


 ギルド会館を出た俺たちは、入り口付近で立ち止まり話す。


「今日の打ち上げはなしだね」


「仕方ないな。明日は早起きしなきゃだし」


 ミアとキリエは残念そうな顔をしている。

 すると、ユイが俺を見ながら言う。


「このまま解散?」


「そのほうがいいかな? 俺も明日に備えて作りたい物があるし」


「もしかして新しい魔道具?」


「うん、対ワイバーン用の装備。みんなの分も作るから」


 俺がそう言うと、残念そうな顔をしていたミアとキリエが、息を吹き返すように目を輝かせる。


「本当? やったー!」


「それってどんな装備なんだ?」


「まだイメージしか出来てないから、作ってみないと何とも。出来れば説明と慣らしをしたいし、集合を一時間くらい早く出来ないかな?」


「もちろん!」


「明日が楽しみになってきたな!」


「うん」


 大変なクエストが待っていると言うのに、彼女たちは通常運転に戻っていた。

 緊張感も大切だけど、これくらいリラックスしていたほうが良いのかもしれない。


 解散した後、俺は道具屋に行って素材を買い揃えた。

 そこからは魔道具作成スキル頼み。

 完成してから睡眠をとって、集合時間はあっという間に来る。

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