17.作戦会議でバッタリ

 緊急クエストが発令された。

 内容は山岳エリアでのワイバーン殲滅。

 上級パーティー向けの難易度だが、俺たちも受けることに決めた。

 時計に目を向けると、午後四時半を超えたところだった。

 受付嬢の話によれば、あと三十分後にクエストの詳細な説明会が行われるらしい。


 クエストボードには依然人だかりが出来ている。

 人と人の間を掻き分けて、ミアが確認に向かっている。

 しばらくして、人の波に流されながら、彼女が無事に戻ってきた。


「見てきたよ~」


 揉みくちゃにされて、ミアは髪の毛がボサボサになっていた。

 手櫛で髪を整えながら、彼女は言う。


「場所は三階の多目的ホールだって!」


「参加条件とか報酬はどうだった?」


「条件は特になかったよ。報酬はね~ なんと、総額四千万ゴードだって」


「四千万? かなりの額だな」


 ミアが言うには、参加したパーティーで四千万を山分けするそうだ。

 特に活躍したパーティーには、追加報酬も検討するらしい。

 報酬だけを見れば、これ以上ないくらい破格のリターンだ。

 つまり、それだけ重要なクエストだということ。


 クエストボードを確認し終わった俺たちは、説明会が開かれる三階へと向かった。

 赤い階段を上っていくと、すぐ目の前に仰々しい扉がある。

 その扉を開ければ、三階フロア全てを一つにした大きなホールになっている。


「わぁ~ もうたくさん人がいますね」


 多目的ホールの七割くらいが、すでに待機者で埋まっている状態。

 まだ時間はあるし、おそらく定刻になれば、このホールも満員になりそうだ。

 これだけ参加者が集まったのも、報酬の破格さが要因の一つだろう。

 よくよく見てみると、名の知れたパーティーが多く参列している。


「な、なんか緊張してきた」


 人の多さに圧倒されて、キリエがぼそりと呟いた。

 まだ始まってもいないけど、何となく気持ちはわかる。

 自分たちがこの場にいることが、場違いな気がしてならない。


 すると――


「ん? あれれ~ そこにいるのはシンクじゃないか?」


 聞き慣れた声が聞こえた。

 もう聞きたくないと思った声だ。

 俺が振り返ると、ガランがニヤついてこちらに歩いてきている。


 ああ、そうだよな。

 彼らがこのクエストに参加していないわけがない。

 少し考えればわかったことだ。

 しばらく楽しくて、忘れてしまっていたよ。


 俺の目の前まで歩み寄ってきたガラン。

 彼の後ろには、パーティーメンバーがついてきている。

 その中に一人、俺の知らない女性が混ざっていた。

 修道女っぽい服装の女性だ。

 どうやら、俺と入れ替わりでパーティーへ加入した新メンバーのようだ。


 彼女と目が合う。

 先に向こうが軽く会釈をしてくれた。

 俺もそれに返す。

 悪い人ではなさそうだな。


 ガランは馬鹿にするような口調で言う。


「何でお前がここいるんだ? まさか、お前も受けるつもりなのか?」


「うん、そのつもりだよ」


「くっ……はっはははははは! 冗談だろ? お前みたいな無能が? やめとけやめとけ! 無駄死にするだけだって」


 ガランはゲラゲラと下品に笑う。

 ティアラたちも後ろでクスクス笑っていた。

 修道服の彼女は、状況についていけずに戸惑っている。


「というかお前、まだ冒険者続けてたんだな? てっきり道具屋にでも転職したかと思ったぞ」


「続けてるよ。新しいパーティーにも入ったんだ」


「ふぅ~ん……新しいパーティーねぇ~」


 ガランの視線が後ろの彼女たちに向けられる。

 一連のやり取りを見ていたキリエが、ムスッとした表情で言う。


「何だよこいつら……感じわるいな」


「シンク、もしかして……」


 ミアは察したようだ。

 俺は答え合わせの意味で言う。


「ああ、俺の元パーティーメンバーだ」


 三人とも、ちょっとだけ表情が怖くなったような気がする。

 そんな彼女たちに、ガランは助言する。


「君たちが新しい仲間?」


 キリエが答える。


「そうだけど?」


「こいつを仲間に入れるとか正気か? 君たち見る目がないよ」


 ガランは俺を馬鹿にしている。

 それを感じ取った途端、彼女たちの表情は一気に強張る。

 そして、驚くことにキリエが――


「はっ! それはこっちのセリフだっての! あんたらこそ馬鹿なんじゃないの?」


 ガランを挑発した。

 彼はピクッと唇を反応させる。


「……は? 何だと?」


「見る目がないのはあんたらのほうだって言ったんだ。なっ、二人もそう思うだろ?」


 ミアとユイが同時に頷く。

 俺はそれを見て、心が震えるような感じがした。

 涙すら出そうだ。

 我慢したけど、本当に嬉しかった。


 対してガランは、イライラしているのが顔に出ている。


「君たち……喧嘩を売ってるのか?」


 ガランはいつもより低い声でそう言った。

 今にも襲い掛かってきそうな怖い顔をしている。

 一触即発な雰囲気。


 ゴーン――ゴーン!


 そこへ時計が定刻を告げる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る