14.森林エリア

 パーティー加入から一週間。

 毎日クエストに勤しんでいた俺たちは、今日もクエストボード前に集まっている。

 現在の時刻は八時十分。

 張り出されたクエストを確認しながら、ミアがぼそっと口にする。


「そろそろ違うクエストも行きたいな~」


「だよな~ バッタ狩りも続けると飽きてくるよ」


「……同感」


 ミアに同調するように、他の二人もうんうんと頷く。

 そして、三人の視線が俺へと向けられる。


 この数日間。

 俺たちは草原エリアのクエストを中心に受けている。

 半分以上はグラスホッパーの討伐で、残りも似たような難易度のクエストを選んでいた。

 理由は戦闘に身体を慣らすためだ。

 三人とも優れた才能を持っていながら、それを帳消しにする欠点の所為で、これまでまともに戦えた経験は少ない。

 だから、新しい装備と環境に慣れたほうが良いと、俺から提案したのが始まりだった。


 そんな感じで同じクエストばかり受けていたら、飽きてくるのも当然だ。

 三人の目が、俺に何を訴えかけているのか伝わってくる。


「そうだね。確かにもう、慣らしは十分かな」


「じゃあ!」


「うん。新しいクエストを受けよう」


「やったー!」


 ミアが嬉しそうに飛び跳ねる。

 キリエがぐっと拳を握り、ユイも小さく笑う。

 三人ともそんなに嬉しかったのかと、俺はちょっと呆れ気味に思った。


「なぁなぁ! どれにするんだ?」


 キリエが俺に尋ねてきた。

 俺はクエストボードへと目を向ける。

 クエストは各エリアごとに分けて張り出されており、右から順番に難易度が高くなっている。

 草原エリアのクエストは左端だ。

 ざっとクエスト内容に目を通して、その中から一枚を手に取る。


「これなんてどうかな?」


 三人が用紙を覗き込み、ミアがクエスト内容を読み上げる。


「討伐クエスト……対象はブラックウルフ十匹」

 

「森林エリアだな!」


 キリエが口にしたように、俺が選んだのは森林エリアのクエストだ。

 森林エリアのクエストは、草原エリアのクエストより一段階ほど難易度が高い。

 受けるパーティーも中級レベルが多く、ときどき上級パーティーが受けるような内容もあったりする。


「三人は森林エリアに入ったことはある?」


「一度だけあります! その時は採取クエストを受けてたんですけど……」


「けど?」


「盛大に迷ったんだよな~」


 ミアの代わりにキリエがそう言った。

 ちょっぴり恥ずかしそうに笑っていて、ユイも目を逸らしている。


 森林エリアは、その名の通り広大な森が広がっている。

 右も左も木が生えていて、視界はあまり良くない。

 道が整備されているわけでもないから、テキトーに進むと迷うことが多い。

 俺も最初の頃はよく迷っていて、苦労させられた記憶がある。


「でもでも、今回は大丈夫だね! だってシンクがいるんだもん!」


「だよな! シンクがいれば怖いものなしだ!」


「あはははっ……」


 最近特にそうだけど、三人の俺に対する期待がすごく高い。

 頼られるのは嬉しいし、悪い気分じゃないとは言え、さすがに大丈夫かと不安になる。

 今までにしたことのない経験だから、まだ慣れていないだけなのかな。


「じゃあこのクエストでいいかな?」


 俺が尋ねると、三人が揃って頷く。

 本日のクエストは、「ブラックウルフ十匹の討伐」に決定した。

 さっそく受け付けに持っていて受理してもらい、そのままギルド会館を出る。

 森林エリアは東門を出て、十分くらい道なりに歩いた先だ。

 

 その道中を話しながら歩く。

 

「前は迷ったんだよね? どうやって脱出したの?」


「どうやってと言われても……何と言うか~」


 言葉をつまらせたミアに代わって、ユイがぼそっと一言。


「偶然」


「だよな~ ひたすら歩き回ってたら、あたしら以外のパーティーがいてさ? 出口まで案内してもらったんだよ」


「なるほど。確かにそれは偶然だな」


 と言うか、相当運が良かったんだね。

 きっと日頃の行いが良いからだろうと、俺は密かに考えていた。

 そうこうしている内に、目の前が一面の緑が広がる。

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