15.ブラックウルフ討伐

 森の中へ入った直後から、同じような景色が続く。

 木々が多いのは当然ながら、生えている木の種類も一緒だから、余計に場所の区別がつけられない。

 これが迷ってしまう原因の一つだろう。


「うぅ~ もうどっちから来たのかわからなくなったよぉ~」


「ミア~ さすがに早すぎるだろ? あっちが出口だな」


 ニタニタしながらキリエが指をさす。


「いや……そっちじゃないね」


「えっ……」


 キリエが指差したのは別方向だった。

 なんだったら逆方向だし。

 キリエは恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。

 それを見てミアは大きな声で笑い、ユイも顔を隠しながら笑っている。


「くっそぉ~ 恥かいた……」


「えっと……なんかごめん」


 申し訳なく思った俺は、中身のない謝罪を口にした。

 まぁミアも方向はわからなくなっているし、笑える立場ではないと思うけどね。


 さらに進んでいく。

 恥ずかしさも少し和らいだ所で、キリエが俺に尋ねてくる。


「シンクはわかってるんだよな? 帰り道」


「もちろん。この辺りは何度も来たから覚えてるよ」


 同じ景色が続いているとは言っても、何十回も訪れていれば、ある程度はわかるようになる。

 わからなかった最初の頃は、目印を一定間隔で置いたり、人の足跡を辿ったりしていたな。

 昔を思い出しながら、何気なく視線を足元へ向ける。

 そこで気付く。


「皆そろそろ警戒して」


 三人がぴくりと反応する。

 足元の地面には、いくつか足跡が残っていた。

 大きさや間隔から見て、人間の足跡ではないのは明らかだ。


「ウルフの足跡だ。それも結構新しいし、この辺りにいるよ」


「武器は構えていたほうがいいかな?」


「そうだね」


 俺が答えると、ミアが剣を抜く。

 キリエが背中から槍を抜き、ユイが杖を両手で握る。

 俺もマジックバッグから弓を取り出した。

 警戒を強めながら進んでいく。


 ガサガサ――


 何かが近づく音が聞こえたきた。

 俺たちは立ち止まり、ミアとキリエが一歩前に出る。

 そうして、正面の木の陰から、六匹のブラックウルフが顔を出す。


 ブラックウルフ。

 文字通り、黒い毛並みを持つ狼のモンスター。

 優れた嗅覚と俊敏性を有し、鋭い牙で大型動物すらかみ殺す。

 数匹で群れを形成していることが多い。


「見えたぞ!」


 キリエが叫ぶ。

 それと同時に、ブラックウルフたちは一斉に接近してくる。

 俺はユイに指示を出す。


「ユイ! 牽制頼む!」


「マジックバレット」


 ユイは頷き魔法を放つ。

 マジックバレットは、魔力エネルギーを収束してビームのように放つ魔法。

 上級魔法の一つで、いくつも魔法陣を展開すれば、砲撃の雨を降らせることが出来る。

 今のように一発も可能だ。


 ウルフが二手に分断される。


「ミア! キリエ!」


「りょーかい!」


「任せろ!」


 二人が前に出る。

 ウルフの俊敏性は脅威だが、今の二人なら大丈夫だ。

 危ないところは俺が弓で援護する。

 ミアが剣で切り裂き、キリエが槍を振り回す。

 二人とも順調に数を減らしていく。


 ここで別方向から、もう一つの群れの接近を察知。


「追加が来る!」


 俺が二人に伝えた直後、正面からウルフ五匹が飛び掛ってくる。

 二人は戦闘を継続していて対処が困難。

 ユイが魔法でカバーする。


「アースバインド」


 地面から根が伸びる。

 根は飛び掛ってきたウルフへ絡まり動きを封じた。


「ナイスだ」


 身動きがとれないウルフを、俺の放った矢が貫通する。

 その隙に二人も、残っていたウルフを討伐。

 戦闘開始からわずか一分。

 俺たちは十一匹のブラックウルフを討伐した。


「よっしゃ~ 勝てた~」


 キリエが槍を持ったまま背伸びをしている。

 ミアも剣を鞘に収め、ほっと胸を撫で下ろしていた。


「お疲れさま」


 俺は三人に向けてそう言った。

 

「ユイー! さっきは助かった! なぁミア!」


「うん! ありがとう、ユイ!」


 二人がユイにお礼を言うと、彼女は俺に視線を送ってきた。

 俺は応える。


「俺も良いカバーだったと思うよ」


「良かった」


 ユイは嬉しそうに小さく微笑む。

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